トレジャーハント Ⅴ

「お疲れ様です!」

 就業終了時刻。足早に職場をあとにする。ミスを連発しておいて定時退社とは気が引けたが、それ以上に加賀見かがみ宮藤みやふじさんのことが気にかかって仕方がなかった。

 メッセージアプリで宮藤さんに連絡を入れる。既読はつくが、返信は来ない。そういえば宮藤さんが普段、どこに暮らしているのかも私はよく分かっていない……行動が先立つという性急さ。私にしては冷静ではない。

 動揺している。


 ただの宝探し、臨時収入のつもりだったが。懐に飲み込んだ2枚の写真を再確認し、私は駅の改札前で宮藤さんに電話をかける。

 ツーコール。スリーコール。出ろ、出てくれ、心臓が鼓動を早める、たっぷりファイブコール…諦めかけたその時、不意に電話が繋がった。

「もしも――」

『もしもし大峰おおみねさん? 良かった出られて……ねぇ、一回しか言わないからよく聞いて。加賀見のこと――』

「……加賀見さんが、どうかしたんですか?」

 ついやってしまった。私は、宮藤さんを完全に信用すべきではなかったのに。咄嗟に気づいて取り繕ったが、既に遅かった。

『もう、とぼけないで。加賀見がね、罠を張ったの。社内で私が孤立するように仕向けてる。私だけじゃない、チームみんなを少しずつ……大峰さんは気づかなかった?』

「……はい、全く」

 宮藤さんが少しだったのは見て取れましたが……付け加え、私は彼女に続きを促す。

「それより、宮藤さんは無事なんですか」

『……肉体的にってことであれば、無事よ。ただ、自宅には寄りつけない。スモークガラスのあからさまに怪しい車がうちの前に停まってた』

「なっ……」

 絶体絶命じゃないか。

「会えますか? 今から」

『そうしたいところだけど……大峰さん、会社から出たとき、尾行とかされてない?』

「えっ」

 背後を振り返る。それらしい気配は、ない。ないが、わからない。

『まずいのよ。あいつは……加賀見は。ずっと一緒にからわかるの……』

「宮藤さん、話の腰を折ってすいません。あの、犯人って、横領事件の犯人って……加賀見さんなんですか」

『…………今は断定できない』

 少し間があって、宮藤さんは答えた。

『ただ、あいつが手段を選ばない人間だっていうのは確かよ。そんなに頭キレるほうじゃないけど、その分行動力があって、厄介』

「……」

『今どこ?』

「駅です、会社最寄りの」

『オッケー、そのまま乗って。それで、適当なとこで降りたら個別のメッセ頂戴。行ったり来たりしながら、やっぱり会おう』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る