トレジャーハント Ⅳ
とりあえず、この会社で横領があったことは確定した。誰が犯人であれ、領収書の件に絡んだ私も無関係ではいられないだろう。給料とは別口で金一封が手に入るというから軽率に乗ってしまったが、これはことによると、今後の私の人生にも関わってくる重大インシデントかもしれない。
とりあえず、
「加賀見さんが?」
宮藤さんは目を丸くしていた。
「私が? 横領事件の犯人だと?」
「はい。あ、ですが、ぼやかしてはいました……確証はないけど、とかって」
「……」
宮藤さんは顎元に手を当てて、何やら考え込んでいた。
「……そんなそぶりなかったのに……」
呟くように、宮藤さんが零す。
「あの、私はどうしたら……?」
「え? ああ、
じゃあお願い。宮藤さんはそう切り上げた。
それで彼女との会話は終わった。
きな臭い雰囲気というのは嫌いではないが、翌日あたりから宮藤さんが露骨にピリピリしだしたのは気にかかった。怒鳴るようなことはなかったが、舌打ちをしたり、溜め息を零す頻度が増えたのは、目に見えてわかった。
宮藤さんを頭から信じ込んでいるわけではない。加賀見と組んだ、二人がかりの壮大な罠で、ありもしない横領事件の犯人に私を仕立て上げようというのかもしれない。それならそれで面白そうだけど、できることなら報奨金だけ貰ってこの件からは手を引きたい、というのが私の考えである。
軽い気持ちで手を出した自分のことはとりあえず棚に上げて、私は通常業務を黙々とこなした。社内でハブられやしないかと恐れたが、元々ぼっち気味な私にはあんまり関係がなかった。
(……あ)
ある日の退社直前。私は、社用で使っているPCの下に数枚の写真が挟まっているのに気がついた。
(いつの間に)
トイレとかで席を立っている隙にやられたのだろうか? 私は写真を抜き取り、映っているものを見て……愕然とした。
宮藤さんが、若い男と親しげに腕を組んで歩いている様子が克明に捉えられていた。
間違いない。この写真にどういう意図が存在するかはともかくとして、私はとっくに関係者だ。これからは、一挙手一投足にも慎重にならねばならない。
金一封の話、どうなるんだろう?
さらに翌日、加賀見が体調不良で会社を休んだ。宮藤さんもまた、午前中で業務を終了。半休を取り、午後から姿を消した。嫌な予感しかしない……私は珍しく、通常業務にも精細を欠いた。
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