トレジャーハント Ⅲ

宮藤みやふじさんが?」

 だとしたらいろいろおかしい。仮に宮藤さんがくだんの横領事件の犯人だとすれば、私に領収書の整理を任せ、あまつさえデータ化させる道理がないからだ。データを消せとも言われていないし、そのセンは限りなく薄い。それともわざと私を引き込んで、疑いの目を少しでも逸らせようというのだろうか? 無意味だ、始めから私は。宮藤さんも、今話している加賀見かがみも、例外ではない。もしも領収書の件で私に罪を引っ被せようというのならばそれは筋違い…というか非常に残念なことで、「宝探し」について。万が一法廷闘争になったときに、最大限有利に立ち回れるように、だ。

 ただ、この会話は急だったので録音ボタンを押せていない。そうできないように、息がかかるほどの距離まで加賀見は近づいてきたのかもしれない。

「そう。答えてくれるかな」

 有無を云わせぬ圧があった。私はこの程度の圧力には屈しないが、他の若い社員なら怯えてしまいかねないな、と思った。

「実は……騙したわけじゃないけど、この間までのあなたと宮藤さんの動きは把握してる。あなたが通常業務を離れていたことも。ねぇ、教えて。彼女に何を頼まれ、あなたは何をしたの?」

「ええっと……」

 加賀見の爛々とした眼が、私を覗き込んでくる。圧だけで押すタイプだな、と悟った……ブラフ誘導尋問トラップを仕掛ける頭脳戦よりも、力押しで相手が気圧されるのを狙うタイプ。

「……過去10年間の領収書を調べるようにと」

「本当にそれだけ?」

「は、はい」

「で、あなたはそれをやったと」

「まぁ」

 はぁーっ、と、加賀見は大きな溜め息を吐いた。

「宮藤さん……あんなことをしたばかりか、こんな若い子まで抱き込むなんて。そんなにあの男がいいのかしら……あぁ、でもまだ確証はないんだったか。ま、すぐ明るみに出るだろうけど」

 加賀見は呆れたように頭を振った。

「とにかく、もう宮藤さんのことは信じちゃ駄目だよ。普段の仕事ならともかく、横領絡みとなれば人なんて何しでかすかわからないんだから」

 頼んだよ、と肩を叩いて、加賀見は足早に去っていった。


 所感、怪しい。十中八九、宮藤さんはシロで加賀見はクロないしは、それか宮藤さんに個人的恨みを持つ人間だ。私の動きを突き止めているあたりからして、各部署に融通が利くのだろう。ああいう手合いを放置しておくのは悪手だが、だからとて私が下手に動くわけにもいかなそうだ。

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