愛を抱きしめて

「養子をとることになってな」

 ある日、出し抜けに父は言った。

 母ひとり、父ひとり、そして私の子ひとり。3人家族として過不足なく生活していたところに、4人目が増えることになる。

 それ自体に不満はない。ただ、家族という共同体はある程度の時間的な積み重ねが必要だ。家庭の崩壊を危惧しているわけではないが、父の口ぶりから見て養子は既に決定事項だ。

「……どんな子なの?」

 私は努めて穏やかな口調で訊ねた。父は、笑顔を浮かべて答えた。

「とても素敵な子だよ。きっと気に入ると思う」

 あまりにも判で押したような回答だったが、私は感じ取った不穏な気配を押し殺した。







「ただいま〜!!!」

 学校から帰ってすぐ、養子の杏里あんりに抱きつく。

「もうっ…お義姉ねえちゃん、先に手洗ってきなよ」

 杏里は私に抗議しながらも、満更でもなさそうに笑って、身をよじらせた。

「あはは、ごめんごめん」

 頬が緩むのを抑えきれない。杏里を養子として迎えて3ヶ月余。私はすっかり、彼女の虜になっていた。

 妹が欲しいと思ったことはあまりないが、いざそれに近しい存在ができてみるとあまりにも愛おしい。抱きしめても、頬ずりしてもチューしても怒ったりしないでいつもニコニコ笑っている。従姉妹とはえらい違いだ。

 杏里は目鼻立ちがくっきりしていて、声は高く澄み、耳心地がいい。長く施設にいたせいか、少し世間知らずなところはあるが、確実に私よりは頭が聡かった。細かいことによく気がついて、家事も全般的に得意だった。私はそんな彼女を溺愛していた。そうせざるを得なかった。


「はいっ、できたよ。今日は鶏むね肉のピカタだ」

「うわっすごい……ピカタってこんな綺麗にできるんだ……!」

「失敗する方が難しい類のメニューだと思うけど……」

 でもありがとね、笑って、杏里はテーブルの向かいの席に腰を落ち着けた。何気ない微笑み一つ取っても可憐で麗しい。

 今日は父も母もいないから、気兼ねなく杏里を独り占めできる。作ってくれた料理を口に運びながら、姉妹水入らずの談笑に花を咲かせる。しかし杏里は本当に可愛い。美人は3日で慣れるというがそんなの迷信だ。杏里の魅力は日毎に増していく。ちなみに料理までもが美味しい。非の打ち所がどこにもない。

「ごちそうさま!」

「ごちそうさま。ねえ、お義姉ちゃん」

 食事を終えると、杏里が私のほうに向かって、佇まいを正した。

「……今日、一緒にお風呂、入らない?」

「……もちろん!!」

 少し上目遣いに頬を染める彼女に、私は全力で頷いた。

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