懸想
天真爛漫、純真、それでいて周囲の観察力には長けており、友人は男女を問わず多い。恋人はいないとは本人の弁だが、この調子ならば時間の問題だろうとされる。
そして私は、同じキャンバスの彼女に数ヶ月単位で懸想している。
誰かに近づいて、声をかけて、それで友だちになる……というのは、私には至難の業であると言わざるを得ない。
まず目つきが怖い。狐を思わせる三白眼で、普通にしていても睨んでいると思われてしまう。身長も高い。威圧的だと専らだ。女子らしくない…ことはないと思うのだが、とにかく容姿で警戒されているような気がしてならない。声も低いし、くぐもってるし。
それでも友だちらしい存在はいる。一緒にお昼を食べたり、夜中まで映画の感想についてメッセージアプリで語り合ったり……彼女らに言わせれば、私は「誤解されている」と。ちゃんと話せばいいやつなのに、と。
しかしながら真澄と私とは、たまたま基礎教育科目で同じになったことがある程度だ。会話もしたが二言三言で、どんな思いを抱かれたのは判然としない。
「話すだけ話してみなよ」
「そーだよ。別にとって食おうってんじゃなし」
友は無責任にそう言うが。ともあれ、従ってみることにした。
「小倉さん!」
授業終わり、廊下を歩く背中に話しかける。ふわり、と髪を揺らして、真澄はこちらを振り向いた。
「――ええと」
「人文科の
話すための口実をいくつか考えていたのだが、直前になって霧散してしまった。
それでも、言葉は紡ぐ。
「……その、小倉さんの発表……とても良かった!」
彼女が発表したのは先週だし、しかも英語の詩だ。人文とはなんの関係もない。
「ほんと? ありがとう〜!」
でも、真澄は手を叩いて喜んだ。良かった、と胸を撫で下ろすのも束の間、それがどうしたの? と言いたげな彼女の視線とぶつかる。
「それでもし良かったら、今度ノート交換しない?」
「え?」
「私も、書いてるんだ…英語の詩」
口からでまかせである。
しかし、真澄の瞳は一段と大きく見開かれて。
「ほんと⁉」
跳ね出さんばかりになる。
「良かった〜……! わたしもね、ずっと英語の詩が好きで勉強してて……」
そして真澄は、びっくりするほどまくし立てて話し始めた。
当初の予定とはかなり違うけど、目的の第一歩は達成したようだ。
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