Fire

 その瞳には、確かに炎が揺らめいていた。




 真里奈まりなという、2歳上の友人がいた。職場の同僚だったから、働き始めてからの付き合いだとは思うが、正確にいつ頃知り合ったかは覚えていない。趣味が合ったのかなんなのか、ただなんとなく一緒にいて……互いに気兼ねなく話せて、同じ話題で笑顔になれる、そういうよくあるけどかけがえのない友だち、だったように思う。

 今となってはすべて憶測でしかない。彼女が何を考え、何を思って私とランチやショッピングに行ったのか、知るすべはもうない。


「結婚、しようかと思っててさ」

「マジで?」

 いつかの冬だったか。真里奈は――少なくともその時点では――一番の親友だった私に、顔を赤らめながらそう告白した。私はおめでとう! と、手放しで喜んだ。

「ありがとね」

「えっ、じゃあさ、真里奈アレじゃん、寿退社?」

「あはは…さすがに仕事は辞められないよ」

「だよね? 焦った〜」

 ほっと胸を撫で下ろす私を、真里奈は、ひたすらに幸せそうな、柔らかな笑顔を湛えて見ていたことを……それこそ、昨日のことのようによく覚えていた。


 式には私も呼ばれた。相手の男の人は背が高くてハンサムで、真里奈が恨まれやしないかと心配になるくらい格好いい人だった。真里奈もかなりの美人さんだったので、正直、理想的な美男美女カップルだなぁ……と、私もやっかむ気持ちがなかったではない。ただ、それ以上にふたりは幸せそうで……単に友人として、精一杯の祝福を送りたい、という気持ちが勝った。

 ブーケは私が取った。すぐに幸せになってね、絶対だよ、と頬にキスまでされたあの感覚を、やはり覚えているし、忘れることもないだろう。




「……火事?」

 真里奈とその夫の新居のマンションは、私の家から会社までの道すがらにあって……消防車のサイレンがうるさかったある夜、窓の外を覗いたら、真里奈のマンションが燃えていた。


 無我夢中で寝巻きのままマンションへ向かった。7階から出火。真里奈が部屋を借りたフロアだ。

「真里奈っ」

 電話には出なかった。だから余計に心配になって、でも彼女はとっくに避難を終えたあとで。

「真里……奈……?」

 その側に、姿。なのに真里奈は、まるで心配なんかしていないとでもいう風に、ぼうっとそこに立っていた。

「真里――」

「――ねぇ」

 真里奈は遮るように、私のほうを見た。

?」

 火の手が下層にまで迫っていた。彼女の瞳は、そのあかを映していた。

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