Fire
その瞳には、確かに炎が揺らめいていた。
今となってはすべて憶測でしかない。彼女が何を考え、何を思って私とランチやショッピングに行ったのか、知るすべはもうない。
「結婚、しようかと思っててさ」
「マジで?」
いつかの冬だったか。真里奈は――少なくともその時点では――一番の親友だった私に、顔を赤らめながらそう告白した。私はおめでとう! と、手放しで喜んだ。
「ありがとね」
「えっ、じゃあさ、真里奈アレじゃん、寿退社?」
「あはは…さすがに仕事は辞められないよ」
「だよね? 焦った〜」
ほっと胸を撫で下ろす私を、真里奈は、ひたすらに幸せそうな、柔らかな笑顔を湛えて見ていたことを……それこそ、昨日のことのようによく覚えていた。
式には私も呼ばれた。相手の男の人は背が高くてハンサムで、真里奈が恨まれやしないかと心配になるくらい格好いい人だった。真里奈もかなりの美人さんだったので、正直、理想的な美男美女カップルだなぁ……と、私もやっかむ気持ちがなかったではない。ただ、それ以上にふたりは幸せそうで……単に友人として、精一杯の祝福を送りたい、という気持ちが勝った。
ブーケは私が取った。すぐに幸せになってね、絶対だよ、と頬にキスまでされたあの感覚を、やはり覚えているし、忘れることもないだろう。
「……火事?」
真里奈とその夫の新居のマンションは、私の家から会社までの道すがらにあって……消防車のサイレンがうるさかったある夜、窓の外を覗いたら、真里奈のマンションが燃えていた。
無我夢中で寝巻きのままマンションへ向かった。7階から出火。真里奈が部屋を借りたフロアだ。
「真里奈っ」
電話には出なかった。だから余計に心配になって、でも彼女はとっくに避難を終えたあとで。
「真里……奈……?」
その側に、夫の姿はなかった。なのに真里奈は、まるで心配なんかしていないとでもいう風に、ぼうっとそこに立っていた。
「真里――」
「――ねぇ」
真里奈は遮るように、私のほうを見た。
「死ぬほど恨んでる相手って、どうしたい?」
火の手が下層にまで迫っていた。彼女の瞳は、その
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