幸福ランチ
メールを確認する。急ぎの案件はナシ。社用のデスクトップPCをシャットダウン。颯爽とオフィスを出る。
私は昼食の誘いを誰かに受けても、極力断るようにしている。
貴重な昼休みの時間を割いて、徒歩10分のラーメン屋に向かう。
「いらっしゃーい!」
モダンな町並みに突如現れる、昔懐かしい木造建築の暖簾を潜ると、清潔感溢れる内装と爽やかなかけ声が私を出迎える。これだけでも好感度は高いが、私の目的はそこではない。
お昼時でもお店は空いていた。少し込み入った路地にあるせいだろうか。
あえてのカウンター席ではなく、奥まったテーブル席に座る。それを見つけた店員が、メニュー表とお
「お待たせしました!」
歌うようなハミングのような、耳心地の良い少女の声。ここでバイトをしている
セミロングの黒髪の下に、形のいい小顔が収まっている。メイクは薄く、ぱっちりとした目鼻立ちの美少女だ。歳は18。進学先はもう決まっていて、繋ぎとしてここでバイトをしているという。私服の上に紺のエプロンを着けて、忙しなくフロアを動き回る様子は見ていて楽しい。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「うん、じゃあチャーシュー麺と炒飯をお願いします」
「うけたまわりましたー!」
美織里は手持ちの伝票に注文内容を書き込み、またぱたぱたと駆けていく。小さく揺れるお尻を見つめながら、私はふっと表情を緩めた。
そう、私は彼女に……伊坂美織里に会うために、足繁くこのラーメン屋に通っている。その美貌、スタイル、どれをとっても日々の労働疲労を丸ごと帳消しにするほどの癒し力がある。ラーメンを口に運びながら、あちこち動いて弾ける笑顔を振りまいていた。
魚介の出汁がよく効いたチャーシュー麺はそこそこ美味しいのだが、正直どうでもいい。美織里が目当てでラーメン食べに来てる。そう、言ってみれば美織里が働く様子をおかずにラーメンを…………なんだか怪しげになったので自重するが。
「いつもお仕事お疲れ様ですっ」
レジでの会計は彼女だった。その笑顔に屈託はなく、自分もそして他人も笑顔にするためのエッセンスがふんだんに盛り込まれている。それでもって、私の顔を覚えてくれている。
「お昼からも頑張ってくださいねっ」
美織里に手を振られる。私は蕩けそうになる顔をなんとか抑えて、店を後にする。
幸せとエンゲル係数が、右肩上がりに増えていく。
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