ヘアアレンジ
髪が短いと、ヘアアレンジの機会に恵まれない、というのが、欠点といえば欠点だ。
「髪いじるのって楽しい?」
暑いからという理由で、夏場はよく髪をアップにしている友人に問うてみる。彼女はアッシュブラウンに染め上げた髪を様々な形態に結い上げては、おしゃれなゴムや髪留めで飾り付けている……という表現が的確かはわからないが、とにかく友人はしゃれている。
「んー……まぁ楽しい、かな」
どうせお風呂入るときには下ろすんだけどね、と笑う彼女は、今日はまんまるなお団子を脳天に作っている。
「髪上げてるとどうしてもうなじとか後れ毛とか気になるからね。見た目ほどには華やかじゃない」
「なるほどね」
12時45分。昼休みももうすぐ終わる。ショートボブというにも短いわたしの毛量で、今から彼女に弄らせるにはちょっと躊躇われる。
「何、髪伸ばしたいの?」
「そういうわけじゃないんだけどね……長いのが懐かしくなって」
「えっ……
「小学校くらいまでの頃は伸ばしてたんだよ。でも同じクラスの男子に引っ張られてイヤになって、それで切った」
「うえー……最低じゃん」
「ま、だからって伸ばすこと自体に嫌悪感はないんだけどね。ただ……めんどくさいし」
「ふぅん……」
友人との会話は、それで終わった。
「髪、ねぇ」
家で鏡と対峙しながら、改めてわたしは呻いた。せめてセミロングくらいにはすべきかもしれない。見てくれがどうこうではなく、わたし自身の意識として、だ。
指先に髪の毛を絡め取る。少し巻き気味だが、質としては悪くない……と、思う。染める気はないので、地の色を生かすしかない。
……まぁ、それもこれも、髪を伸ばしてからのお話だ。
(今年くらいは、伸ばすのもありかもな)
翌日。友人に伸ばす気になった? と訊ねられた。
「うん、まぁ」
煮え切らない返事をすると、良かった、という一言とともにファッション雑誌が手渡された。わたしもたまに手に取るやつだ……なるほど確かに、ヘアアレンジのコーナーは読み飛ばしていたかもしれない。
「星菜が伸ばすっていうんなら、私も協力するよ。ヘアアレンジは奥が深いから、星菜のを手伝ってあげることで、私も何かに気づけるかもしれないし」
「……そういうことなの?」
でもありがとう、と笑って、わたしは雑誌を受け取った。
「いつもはどれくらいで切ってるの?」
「もうちょい長くなったら……くらいかな」
今秋今冬が、少し待ち遠しい。
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