空と地上を繋ぐ
編隊飛行の戦闘機たちが、上空で8の字を描いてターンする。ジェットエンジンの轟音に負けないくらいの歓声が地上から上がった。
軍の内部は機密の塊だが、しかし航空ショーくらいは折を見て行われる。数年前までこの国はさる「連合」の傘下だったが、ここ数年で「西側」の介入があって状況が変わった。45年ぶりの「雪解け」……メディアはそう報じる。
おおっ、と一際大きくギャラリーが盛り上がる。上空300メートル、白百合のノーズアートが描かれた海軍機がバレルロールで上昇していった。その様子を捉えようと、三脚付きで西側製の一眼レフを構えている者もいる……数年前では何もかもが夢物語だった光景だ。私も拍手と喝采を送った。
「――ふぅ」
「お疲れ様。格好良かったよ」
パイロットスーツを脱いで宿舎へ帰ってきた彼女に、ミネラルウォーターのボトルを差し出す。
「ふふふ。どうせビデオには残ってるんだろうけど……悪くないよね、こういうのは」
彼女は巻き毛を揺らしながら言った。空軍初の女性パイロットで、20代にして尉官で、そして……私の恋人。自慢の、恋人だ。白百合のノーズアートは、彼女の
くい、っと喉を鳴らして水を飲み干す。その様子がどうにも色っぽくて、時折クラッときてしまう。私のことを、女らしくて可愛い、なんて評しながら近づいてきたのは彼女のほうだが、女性的魅力、ということに限れば彼女だって負けてはいまい。
「……どうかした?」
「ううん、なんでも」
私も実は軍属だ。いろいろと便宜を図ってもらって、なんとか彼女の近くで仕事を続けられている。軍は男社会だが、その中にあっても彼女の活躍は一際だった。
ただ、不安はある。上空1000から2000メートル、そんな人智の及ばぬ世界で、機械の翼に命を預けて飛び、時には戦うことさえもある彼女の身を、案じないわけにはいかなかった。その不安を悟られまいとはするのだが。
「そうだ、撮ってくれた? 私の勇姿」
私の様子を察してか、彼女はいつも笑顔で話題を振ったり、変えたりしてくれる。
「――うん、画素数はいまいちなんだけど、動体を追うのが得意で……」
でも、その笑顔を見る度に、私は胸がぎゅっと潰れるような気持ちになる。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
「うん。行ってくる」
滑走路に向かう彼女の背中に手を振った。
何度もそうしている。今までも、そしてこれからも。
そうあってくれ! という、願いを乗せて。
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