四季の感覚

 感覚的な話だ。つまり、言語化はかなり難しく、ただ胸に違和感が残っている……というだけの話なのだが。

 昔から、季節というものが理解わからなかった。春、夏、秋、冬。理屈の上では理解している。日本、温暖湿潤気候、四季の存在、天候・気候の変移、それに伴う文化の発生、定着、ライフスタイル……私だって衣替えをし、俗な喩えだが……夏にはアイスクリームを食し、冬には湯豆腐を美味しく平らげる。私はそういうことをするし、どちらも暑いとか寒いとかいうあってこそ得られるものだ。

 しかし、私の場合はそこから情緒的なあれこれが欠落しているように感じる。肌感覚はある、だがそれだけだ。物理的にしか四季を感じることができない。せっかく四季のある国に生まれてもったいない、そう憤慨する者もあるかもしれない。しかし私には四季を感じるがないのだから仕方がない。


「……まぁ、難儀っちゃ難儀かもしれないね」

 母に相談するとそのようなことを言われる。

「別に、桜餅食べるのだって春じゃなくてもいいわけじゃん。冬にざるそば食っても、かき氷かっ喰らっても……それは私の自由じゃないの?」

 そう言うと、それはそうなんだけどね、と煮え切らない返事をされる。

 私のモヤモヤはますます溜まっていく。


「四季がわからない? あんた定期的にそれ言うよね」

「悩んでるから言うんだよ」

 親友に相談する。中学以来の知己ちきである彼女なら、何か腑に落ちる答えを提供してくれるのではないかと考えたからだ。なお、今のところそういったものはもたらされておらず、私も半ば諦めている。ただこうして、喫茶店に入って駄弁るネタに使うだけだ……ただ、悩んでいるのは本当なので、ワンチャン解決しないかな、という期待は寄せている。

「……春だから気分が浮かれるとか、秋になると物寂しいとか、ないの?」

「周りが言ってるからって自分もそう思うとは限らない…って気づいてからは、思わない」

 このやり取りも何度か繰り返した。確かに幼稚園くらいの頃までは、目に入る何もかもが目新しく、私なりに感動していたのかもしれないけれど。

「んー…………」

 だからって彼女を悩ませるのは忍びない。もういいよ、と立ち去ろうとした時、親友は唐突にあ、と口を開いた。

「何?」

「ペット、飼ってみたら?」

「え?」

「換毛期ってあるじゃん」

 ……それが四季を知る手がかりになるというのか?

「……ペットショップ、行ってみよっかな」

 その意気だよ、と親友は笑った。

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