隣家
隣家には4人家族が住んでいた筈だが、ここのところめっきり物音がしなくなった。
私も四六時中家にいるわけじゃない。よって、隣家に住む一家のことは苗字と家族構成くらいしか知らないのだが、それでも休日に家にいるときには、隣から何かしらの生活音がしていた筈だ。
それがめっきり止んだ。お隣の郵便受けに新聞やDMが溜まっていれば夜逃げと推測もつくのだが、いつの間にか新聞類は回収されており、車や家財がなくなった様子もない。まるで、人が住んでいないのを住んでいるように見せかけるために細工しているみたいだ。
「中村さん、町内会費を――」
「……払いますが、その前にお話ししたいことがあるんです」
訪ねてきた町内会長を巻き込んで、隣家に関して私が感じている違和感を話す。
「警察に連絡した方がいいんじゃないの?」
会長は冷静に正論を述べた。ただ、私には起こってもいない事件に警察が動いてくれるとは思わなかったし、私の勘違いだった場合には無用なトラブルになってしまうだろう。先ずは確認するべきだ。そう考えた。
「……じゃあもし何かの事件が起こっていた場合、私たちも危ないんじゃない?」
「そういうことになりますね」
隣家の門扉を開ける。空き巣が目安にマークを残していくということがあるらしいが、その類は見当たらなかった。
「
ご主人の名前を呼びながらインターホンを連打し、ドアノッカーをガチャガチャする。よくある中流階級の2階建てで、はめ殺しの出窓にはクマのぬいぐるみが置いてあった。
「中村さん!」
怖がっていたわりに野次馬根性が勝ったのか、裏口に回っていた会長から声がかかる。
私も裏口に回った。会長が指差す先には、巧妙に
「……どうします。危なくないですか、これ」
「これ……中に?」
「さあ……」
2人で迷っていると、家の中からかすかな物音が聞こえてきた。よく聴くと、それはリズムになっていた……。
「モールス……」
「『SOS』だ! 警察に連絡!!」
「はい!!」
強盗が、佐藤一家を人質に立て籠もっていた。それも数ヶ月。家族は比較的すぐに救出され、犯人は捕まった。
警察車両や救急車がごった返す中、私たちは事情聴取を終え、一息ついていた。
「……中村さん、さっき私に命令を」
「気のせいです」
「いやでも確かに」
「警察の人が淹れてくれたコーヒー、冷めちゃいますよ?」
「……」
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