夜風のアヤメ
午後8時。
プリペイド携帯をスリーコール、鳴らす。それが合図だ。間もなく相棒がやって来る……今回の相棒はここいらじゃちょっとした有名人らしいが、
通りでエンジンの音が響く。ちらりと見やれば、車は走り去って、降り立ったのはひとりの女の子だった。
驚いた。私もそうとはいえ、この業界で若い女は珍しい。アルビノ、というのか、銀と白の中間くらいの髪色をして、
「あー……英語、わかる?」
北欧生まれロシア訛りの私が、イギリス発音をマスターするのには時間がかかった。わからない、などと言われては堪らない……彼女が頷いてくれて助かった。
「名前は」
「アイリス」
赤い唇が可愛く歪み、舌っ足らずな英語で言葉を紡いだ。アイリス……アヤメか。
「銃は持ってる?」
アイリスは短銃身の
「上出来。じゃあ行こうか」
アイリスはこくんと頷いた。無口な子だった。
カチコミはあっけなく終わった。
表に出ると、靄のかかった月が真上に出ていた。
「怪我は?」
「してない」
「良かった。明日もある、弾薬の補給は……」
「ねぇ」
アイリスの視線が私を射抜く。髪と肌と、瞳のコントラストが、私の心臓を持ち上げた。戦闘中の酷薄な印象はなく、ただ年相応の女の子がそこにいた。
「明日終わったら、おいしいもの、食べたい」
「……私、ここらには詳しくないよ」
「うん。だから」
……話が見えない。けれど、アイリスから目を逸らすことができなかった。
「連れ出してほしい、わたしを」
白銀の髪が、夜風に吹かれる。拙い英語だったが、意志ははっきりと伝わってきた。
「……ここで腐るようなタマじゃないってこと?」
「……そうなるかな」
顔を見合わせ、笑う。
とりあえず後は、私のモーテルに帰ってから要相談、だ。
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