きっと支えに

 中古の軽自動車を転がして、指定通りの時間にあずさを迎えに行く。校門前は恥ずかしいからって、わざわざ裏手の第二グラウンド裏を指定してくる。

 私の妹の娘……姪にあたる彼女は、都内有数のお嬢様学校の制服を着て、項垂れながらこちらに向かってきた。ドアロックを解除する。

「ありがと」

 乗り込むなり、ぶっきらぼうなお礼を言われる。私は梓がおしめをしていた頃からの付き合いなので、姪の可愛いところも生意気なところも知っているし、今みたいに不貞腐れてるときの扱い方をも知っている。

「なんかあったん」

「関係ないでしょ」

「なくはないよ。帰ってからりーちゃんに叱られるの、私なんだから」

 車を出す。りーちゃんというのは梓の母……私の妹のあんの名前を略した? ものである。

「……怒られたらいいじゃん」

「あはは」

 スクールバッグに顔を埋める彼女は、いつもとは様子が違っていた。

 さすがの私も、それ以上はからかうのをやめた。

「本当にどしたの」

「……マコちゃんは知らなくてもいいコト」

 後部座席からくぐもった声が返ってくる。マコちゃん、というのは私の名前……ことを縮めた? ものだ。

「でもね、一応話しといたほうがいいと思うよ」

 車を左折させながら、私は言う。

「なんで」

「嫌なコトって、胸に溜めとくとその比重がどんどん大きくなるの。だから早めに話して、ガス抜きする方がずっといい」

「……そんなもん?」

「大概は、ね」

 思えば第二グラウンドの裏に車を回すようになったのって、他の子の家の車は高級車ばっかりで恥ずかしいから……とか、そんな理由だった気がする。家は裕福とはいえず、特待生で入った彼女には、私などには計り知れない苦労をしている。

 梓は体面を気にする子だ。有り体に言えばプライドが高く、また見下されることを良しとしない。学がなく、生き方にこだわりを持たない私とは違う……それでも、私を本気で悪し様に言ったりしたことはない。根は優しい子なのだ。




「……学費」

 車がバイパスに入ったとき、梓は口を開いた。

「クラスで滞納して、督促状貰ってるの、うちだけだった。いろいろ言われた」

 それで――続ける彼女の声は濡れていた。

「……悔しいよ、お父さんもお母さんも…マコちゃんも、頑張ってくれてるのに」

「……」

「……でも、学校はやめたくない。いつか見返してやる」

 私は答えない。下手なことは言えないから。

「……マコちゃん」

 梓は涙の痕が残った頬を歪めて、少しだけ笑って見せた。

「ありがとう。話したら、楽になった」





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