快眠業者 ⅩⅩⅧ
地下室は暗い。だが間接照明はあった。快眠請負人がスイッチを引いた。
「……これは」
白熱電球がいくつか灯る。壁面は三方が土だった。床は石造りで、部屋の中央には何か……手術台のような物が置いてある。
「実験施設です」
快眠請負人は言って、どこから取り出したのか白いゴム手袋をはめた。
「
「は、はい」
「台の上にどうぞ」
「……いいんですか」
「靴は脱いでくださいね」
言われたとおり、靴を脱ぎ捨てて台の上に上がる。
「……どうするんですか」
「まずはじめに、貴女に謝らなければなりません」
加奈の質問には答えず、快眠請負人は物騒なことを言った。
「この実験は貴女が初めてです。臨床事例はありません。何が起こったとて不思議ではありません。勿論、可能な限り責任は取りますが」
「……」
「よろしいですか?」
快眠請負人は、加奈と視線を合わせた。
「……構いません」
加奈は頷いた。
「……で、具体的にどうすればいいんですか?」
「基本的に、何もする必要はありません。そこで寝ていてください」
「……はぁ」
何か大層なことをやるものだとばかり思っていたから拍子抜けだ。まぁ、快眠請負人なのだし、眠る以外で加奈にできる協力の方法もあまりないだろう。
ただ、いきなり寝ついてくれと言われても……快眠請負人のことだから、きっとすぐに加奈の意識を奪えるのだろう……ということは想像がつく。大人しく横になった瞬間、快眠請負人は加奈にシーツを被せた。
「えっ……火葬とかしませんよね!?」
「すると思いますか!?」
安心はしたが、まだ詳細を聞いていないのでわからない。急に不安になってきた。
「あの……お願いします」
「……わかっています」
元よりそのつもりですから。快眠請負人は言って、瞬間、加奈の瞼は下がった。
目の前に本人がいると、効力がやっぱり違うのだろうか……考えるだけの余裕は、加奈にはない。よく考えたら、これ、本日2回目…………。
覚醒。
身体に違和感はない。堅い台の上で寝た筈なのに。爽やかで、充足感に満ちた目覚め。これで朝日でも射し込んでいれば良かったのだが……あいにくここは地下室である。陽光など射し込まない。
「んー……」
伸びをする。快眠請負人の姿はない。
「……どこ行ったんだろう」
その点はあまり気にしてはいなかった。この屋敷を放置するとは思えなかったからだ。
そして――加奈は、自分が台から降りられないということに気がついた。
「……え」
手術台の周りは、水で満たされていた。
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