青さゆえの

 わかいがゆえの過ちは誰にでもあるものだ。

 しかしそれは、精神が未熟であるがゆえに起こるものだ。

 身も心も成熟しきったいい大人が、そのような間違いを犯していい筈がない。


 いい筈がないのだ。







 目が覚める。身体が鉛のように重く、おまけに割れるように頭が痛い。

(……ああ)

 ずきずきとした痛みに耐えながら、なんとかして上体を起こす。ホテルかモーテルらしい、安っぽい部屋が目に入った。

 昨夜は飲み比べを……有り体に言えば、ジョッキを何杯空けられるか、というバカをやって、ハイボールを立て続けに呷ったあたりから記憶がない。病院じゃないということにひとまずは安心する。

(……大学生だっけ)

 飲み比べ……ということは、相手がいて然るべきだ。大学生……華の女子大生が私のお相手だった。そう記憶している。笑顔の可愛い子だった。で、何か……いかがわしい条件をつけて飲み比べに参加したような気がする。

 成人して間もないような子がそんなに飲めるのか、それともその前からアルコールを常飲していたのかは不明だが、とにかく私は勝負に負けたようだ。34歳にもなってそんなことをやっているなんて。実家の母が聞いたら呆れるに違いない。お姉ちゃんは企業の役員になってるってのにあんたは、ああもう母の顔が浮かんでくる。2つ上の姉は国立を出ているのだ、それくらいでなくてどうするというのか。頭痛が酷くなりそうだ。私は思考を停止した。

 着の身着のままだった。酒癖の悪さは承知しているが、近年稀に見るほどのアレっぷりだ。横を見やれば、シーツの乱れたベッドが……一瞬にして背筋が冷える。一緒に呑んだ女子大生の姿は見えない。

(……嘘でしょう?)

 一回りも違う女の子に手を出したと? 眩暈がしそうになる。いや、でも、服は着ているし……思案していると、部屋のドアが開いた。

「おはようございます」

 見覚えのある笑顔の娘がそこに立っていた。清楚そうな黒髪ロングで、カーディガンにジーンズで、少しばかり肉付きが良くて……ああ、私好みの子だ、だから声をかけたんだ……そう瞬時に悟り、冷や汗が止まらなくなった。

「…おはよう。あの、訊くけど」

「はい?」

「……私、その……あなたに……何もしてないよね?」

「さあ?」

 小悪魔の微笑み。さあっと血の気が引いていく。






 青いがゆえの過ちは誰にでもあるものだ。

 しかしそれは、精神が未熟であるがゆえに起こるものであり、またそうでなくてはならない。

 成熟しきった大人が、そんな間違いを犯していい筈が……。

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