異邦

 元々はアングラなサイトで、国籍も知れない外国人とメッセージのやり取りをしていた。たどたどしい英語だが、辞書なりなんなりを使いこなして、どうにか会話らしいことをしていた。特定の国をディスるようなことを言わなければ、至って平穏無事なコミュニケーションが取れていた……筈である。


 そこで、ある相手と出会った。自称女性、アフリカ系の黒人で、西海岸のほうに住んでいるという。インターネット上のことだしと話半分以下に聞いていたが、彼女の話はとても面白かった。メディアではおそらく絶対に明かされない、赤裸々で生々しいアメリカの現状を明かしてくれたのだ。

 代わり、私も日本の情報をいくつか小出しにした。生まれて以来国を出たとこがないという彼女は、私の語るごく平凡な――日本人にとって、ごくごく当たり前の――日常生活に対し、大げさなくらい反応して、またその内容に喜んでいた。

 当時でもインターネットで知り合った相手とリアルで会うな! というのはネットの鉄則だったが、私は強く興味を惹かれた。彼女に会ってみたいと、そう願うようになった。

 彼女もまた、奇跡的に同じ想いを抱いてくれていたらしい。しかしながらタイミングが合わないのと、私の英語力の問題から互いに完璧に意思疎通できていたとは言いがたいことに端を欲する行き違いなどもあって、なかなかきっかけを掴めずにいた。結局、会いたいと思ってからはしばらくネット上のやり取りだけで、それ以降の進展は見られなかった。


 転機は突然に起こった。彼女の通うハイスクールの一団が、日本への卒業旅行を計画しているというのだ。私は大喜びで場所を聞き出した。地元からは多少離れていたが関係ない。新幹線を駆使して、待ち合わせ場所に急いだ。こんなにも誰かを待ったのは久しぶりだった。

 昼過ぎくらいに、アメリカのハイスクールらしき人たちと遭遇した。その中に彼女がいた。

 くるくるとカールした髪、白い歯、笑うとくしゃっとなる顔……会えてよかったと思えるような、人懐こい彼女だった。


 私と彼女は国を超えた友情を紡ぎ、とにかくよく遊んだ。一時は日米関係が一触即発の状態になったりもしたらしいが、二人を隔てるほどにはならなかった。この交流のおかげか、私は海外に仕事を取れるようにまでなった。




 それで。

 会えるようになり、電話ができるようになってもなお、私と彼女は最初に知り合ったときのサイトを利用していた。二人にとって特別な意味があると、互いに信じていたからだ。

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