休日
展望台とかにありがちな、100円だかなんだかを入れる双眼鏡みたいなやつ。錆びついていたり汚かったりであまり触る気にもなれなかったが、たまたま程度が良かったのと、興味があったのでお金を入れてみた。
ジーッと動いて、そのまま
しかし既に100円は飲まれている。意地でも引き下がるわけにはいかない。わたしは可動域の狭い双眼鏡と必死に戦い、丘から見える景色を楽しんだ。もしかすると裸眼のほうがよく見えたかもしれなかった。
散歩ついでに市内の自然公園みたいなところに足を伸ばしてみたはいいが、やはり見どころも少ない。行かなくても別に良かったんじゃない? という思いが脳裏を掠めていく。いやいや人生には無駄な時間こそが必要だ、と己を律しつつ、展望台……というか高台広場みたいなところを去った。
一丁前にラベンダー畑があったり、小さい牧場とできたてソフトクリームのお店があったりして、県外の客を集められるほどではないにせよ、この公園自体は市民には人気のあるスポットだ。歩いているだけで楽しい、というのもあながち間違いではないだろう。実際、今日みたいに風の気持ちいい晴れの日にのんびり散策するのは、なんともいえない爽快感がある。
……ただしそれは長時間保つものではない。どうにか楽しもうと思っても、ものの数十分で飽きが来てしまうのである。
(いやいやいや! せっかく普段来ないところに来てるんだし、何か――)
そうは思っても、現実は冷たく牙を剥く。いや、牙を剥いてくれればそれに越したことはないだろう。とにかく何もない。びっくりするほど……飲食店や、レジャー施設や、果てはキャンプ場らしきものもないというのが、虚しさに拍車をかけた。
(…………帰ろう)
結局わたしは屈した。うら若き乙女には、退屈以上の恐怖が存在しなかったのだ。せめてもとばかり、先述のソフトクリーム屋さんでしぼりたて牛乳ソフトを注文し、瑞々しい納涼を感じてお開きとした。
なんのかんのと言って結構長いこと自然公園にいたらしい、見れば陽は傾きかけ、地平線に近づこうとしている。ということにしておこう。本当はまだ午後の4時半である。それを認識すると負けた気がする。
お豆腐を買って帰ろう。あとお味噌も……。レイヤーをお出かけモードから切り替えて、わたしは家路についた。
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