プロジェクト
面倒なことになった。
わたしは携帯電話で親友に連絡を入れる。おそらく、彼女も似たような状況に追い込まれているだろうから。
『もしもし?』
ツーコールで、やや切迫した彼女の声が返ってきた。
「良かった。わたしよわたし。そっちの首尾はどう?」
『順調とは言えない。ポシャる寸前のをどうにか持ち直したってところ』
「そうか……」
わたしは会議室の壁にもたれかかりながら時間をチェックする。次のミーティングまで残り2時間。
今わたしたちは、どうしても成功させなければならない案件を抱えている。
1つのプロジェクトに対し、同時並行で対処する2ユニットが存在する。ユニットAは現場担当。営業、売り込み、市場調査……よくある商品開発の現場だ。彼女がこちらに当たる。対するわたしは内職専門……ユニットBは、Aチームの調査・研究の結果に応じてターゲッティングやマーケティングを考案していく。1つのブランドが世に出るまでに交わされる会議の数は、それこそ想像もつかないくらい膨大で、役に立つかもわからない……といった塩梅だ。
今回の案件は比較的うまくいっていた。途中までは。何がいけなかったかというと、要するにAチームとBチームの噛み合わせであり、相性であり……そこの軋轢を和らげるために、大学時代から付き合いのあるわたしとその友人・彼女がユニットリーダーに選ばれたのだが。
「……いやはや、ここまで相性悪いとは思わなかったよ」
『だね……こりゃ次の合同会議、相当荒れるよ』
「そうさせないためにわたしたちがいるんでしょ。ま……波風立たずに終わるってことは、あり得ないでしょうけど」
自販機でコーヒーを買いながら、彼女と通話を続ける。わたしは交友関係が狭いので社内派閥とかは詳しくないのだが、彼女曰く今回ばかりはユニットの分け方がマズく、とにかくいつ暴発するかわからない燻り方をしている…とのことで。
「地雷原」
『ふふっ……確かに!』
「笑い事じゃないでしょ」
わたしは窘めつつ、缶コーヒーのプルタブを開けた。既に2日泊まり込みで、ろくな睡眠が取れていない。それでもこのプロジェクトを諦めるわけにはいかなかった。うまくいけば、特許の申請状況次第で業界に革命が起こせるのだ。
「……じゃ、頑張ろう。お互いに」
『もちろん……あ、うまくいったらさ、ふたりで焼肉行かない?』
「も〜、それフラグって言うんだよ!」
あははは、と冗談を飛ばしつつ、わたしは心底から、彼女と肉を焼きに行ける日を待ち望んだ。
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