わたしはセカンド

 セカンドガールなる概念がある。わたしが知らないだけでセカンドボーイのほうもあるのかも知れないが、どっちにしたって胸糞の悪い話である。

 二番手セカンドってことは、つまり本命じゃないということだ。おまえは本命ではないけれど付き合いを続けてくれ……という、あまりにも身勝手で、どうしようもないエゴ。

 それに付き合うわたしもわたしだ。同じ穴の狢だ……そう諦めをつけてはや半年。わたしはわたしをセカンドガールに貶めた男の腕を取ってきょうも街を歩いている。

「あれなんかいいんじゃない?」

 男はビルのショーウィンドウを指す。わたしが嫌いだとさんざん言っているブランドの服が陳列されている。だが、セカンドガールが出しゃばることは許されないので、適当に曖昧な笑顔を浮かべておく。下手な真似をしたら、サークル内でのわたしの評価も悪くなる。サークル内では金回りのいい短期バイトの情報も回しているから、一人暮らしのわたしにとっては生活に関わる問題だ。


 そうだ。別にこの男に好かれたかったわけじゃない。今もって好意はない。その点ではむしろ気が楽だ。他に本命がいるせいか、彼のことでしんどくなったりしないからだ。ではなぜセカンドガールを承諾したのか?

「じゃそろそろ帰ろっか。タクシー代出すよ?」

「いや、いいよ。悪いし」

 ここで承諾すると、またわたしの評価が落ちる。タクシー代を出させる女、として名が刻まれる。わたしは男と別れた後、溜め息を吐きながら地下鉄の階段を降りていった。


 どうしてこんなことをせねばならないのだろう。時折自問自答をする。その度に、ある女の顔がよぎる……二番手がわたしなら、その女は一番手ファースト、といったところか。今の男の本命、というわけではなかったが、サークル内で力を持ち、いわゆるハイスペック彼氏をも有する彼女は、メンバーの交友関係すらもコントロールしていると噂があった。つまりわたしのセカンドガールという役職たちばは、仕組まれたものでもあったわけだ。



「みんな、お待たせ」

「ユミ、おっそ~い!」

「ごめんごめん。スマホ忘れててさ」

「ええ? なくてもいいじゃん」

 その女と会話を交わす。全身が総毛立つような気味の悪さ。わたしの存在を軽視する、冷めた態度。そのすべてが。

「授業終わったら飲み行こうって言ってたんだけどさ」

「あ。ごめんわたしパス」

 その、すべてを。

「遠慮しなくていいのにぃ」

「あはっは。また今度ね、レポート溜まってて」

 いつか。


 いつか、潰してやりたいものだ。

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