深く味わうその先に

「最近の若い子って」

 ベッドの中でスマホをいじくりながら、わたしはポツリとそう漏らした。

「何?」

「なんていうか、脱ぐのに躊躇いないよね」

「お姉さんじゃなかったら抱かれてないよ」

「……お上手」

 高校2年生とかなんとか。都内のそこそこの私立高に通うお嬢さんだ。家庭環境的に恵まれていない筈もなく、ともすれば身体を売る必要なんかないと思うのだが、彼女の言い分は違う。違う、と言いきるのも早計かもしれないが……とにかく、お金が目当てのドライな関係。彼女……ゆきとわたしを繋ぐはそれだけだった。

 黒髪をショートかボブの中間くらいに切り揃え、切れ長の眼にひとつまみ程度のマスカラを引く。元が良いので、それだけで異性も同性も惹きつける魔性の目元が完成する。時折、蝶々がモチーフのヘアバンドを着けることもあり、それがまた筆舌に尽くしがたい愛らしさを演出する。黒曜石のような瞳は蠱惑、この子は自分の「魅せ方」を熟知していた。

 それだけのポテンシャルがあれば引く手数多に違いないのに、現状わたしだけを相手にしてくれている。それだけに、毎回「1時間コース」の後に支払う2万円の軽々しさには嫌気すら覚えていた。


 高校ごとに援助交際のネットワークがあるらしい。バレたら停学どころでは済まないだろう。わたしも、もちろんお縄となる。そのリスクを冒してなお、深雪は抱かれに来る。わたしはそれに応える。その代価は紙切れ2枚……あまりに彼女がかわいそうではないか?

 このところ、深雪以外の女の子を抱いていない。罪悪感を覚えていたからだ。あまりにも身勝手で自分本位なソレだが、ないよりは遥かに、わたしも気が楽だった。

 いっそ、誰か他の人に、深雪は抱かれていればいいとさえ思った。わたしのあずかり知らぬところで、激しく、はしたなく、獣のように乱れていればいい、と。

「この後どうするの? わたし時間あるけど、ご飯とか行かない?」

「ありがたいのですが、謹んで事態申し上げます」

 服を着終わった深雪が、学生鞄を持ちながらペコッと頭を下げた。

「テスト期間中なもので」

 まぁ、とわざと大袈裟に驚いてみせる。

「こんなところでおばさんに抱かれてていいの?」

「良くないですって。それに」

 あなたはおばさんじゃない、お姉さんですよ? 社交辞令ひとつに、うっかり舞い上がりそうになる。社交辞令じゃないのかも、という期待を寄せて。


「それでは、失礼します」

 深雪のいなくなった部屋で、心地のいい寂寥感と倦怠感に包まれている。


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