寒中水泳
静かな湖畔の町だった。
湖はちょっとした海と見紛うくらいの
それを不服とは思わなかった。むしろ、町にとどまる理由ができたとすら思っていた。
妙子はこの町が好きであり、この町に住む人たちがまた好きだった。
あるとき、外部から人間が引っ越してきた。歳の頃は妙子と同じであったが、垢抜けていて大人びていて、妙子よりずっと可愛らしい女の子だった。
きょうだいや親戚どころか、同年代の友だちすらろくにいなかった妙子は、案内役を買って出た。
少女の名前は
気の合う両者にとっては、それは幸せな時間であった。都会の暮らしに疲れたという美姫、生まれた町以外は知らない妙子。パズルが噛み合うような相性の良さだった。
あるとき、妙子は言った。
「もし、わたしと一緒にここに住んでほしい、と言ったら、承諾してくれる?」
それは
「もちろん、いいわ」
ふたりは見つめ合い、手を取り合った。これまで感じていた幸福が、何倍にも膨れ上がるかのような気分だった。
しかし、その幸せに水を差すものがあった。
美姫を追ってきた
「次の日曜までに答えが出なければ、その友人とてどうなるかわからんぞ」
あくまで拒否する美姫に、男は脅すような言葉をかけた。
「わたし、離れたくないわ。あんな男の言いなりになるのは絶対嫌。だけど……」
「……わたしのことを心配してくれているの? それなら……」
「いいえ! あの男は……危険よ」
美姫は目を伏せた。今の今まで気づかなかったが、彼女の右腕には黒黒とした
それで、妙子は決心した。
「いなくなった……どんな魔法を使ったの?」
「ふふ。少しばかり泳いでもらったのよ。今の時期でも、夜は冷えるし……水を吸った服は重たくなるわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます