3
「わけは訊かないでくれるとありがたいんだけど」
親友――元親友の弁解など聞きたくはない。私は
「……どういうつもりなの」
胸倉を掴もうとしたが、あいにく女は裸だった。行き場のない拳が空中で震える。
「……うーむ」
女――
梓恩は私の彼女だ。歳がひとつ下で、ちょっとぼーっとしているところがあって。たまたま講義のノートを貸してあげたところから始まって、最初は友だちだったのに、いつしか互いに、そういう意識を持つようになっていた。告白は彼女のほうからで、私は経験がなく、OKはしたものの戸惑っていた。探り探り、ついばむように睦み合った……それは、たしかに幸せな時間だった。
一方で、梨梵が私にとって大切な友人であったということに異議はない。付き合いはやはり大学に入ってからだったが、高校の頃から引き続いて彼氏がいると言っていた。別にそんなことはどうでもいいから、梓恩とは別のベクトルで仲を深めていたのだが、あるときから梓恩と梨梵の仲が急速に深まった。
所属ゼミの違う二人の急速接近を不審に思っていた私だったが、理由がすぐに分かった。梨梵がこっぴどいフラれ方をして、梓恩がそれを慰めた、というのだ。よくある話だが、そこから先は梓恩も話してくれなかったし、何より、私がいながらそういう仲になることはないだろう……そう踏んでいた。私と梓恩がそういう関係であることは、梨梵も承知していたからだ。
どうやら私は、親友の本性を見誤っていたらしい。手籠めか、寝取りか、最近妙に梓恩が冷たいと思ったら、こういうことになっていたとは。
「……」
「どうするの?」
「………ッ」
怒りのやり場はどこにもない。この子は…梓恩は私の彼女で、それで、それで――?
このまま首を絞めて、梨梵を殺してしまってもいいかもしれない。でも、そうすればきっと後悔する、それだけの理性が残っていたから、なおさらじれったかった。
とりあえず。
「ッ!!」
「――痛っ」
梨梵の頬を引っぱたいた。これで反省してくれる公算などあるはずもない。単なる自己満足だ。
「……ごめん」
梨梵がようやくしおらしい顔になった。
「遅いよ、全部……」
私は糸が切れた人形みたいに、フローリングの上に座り込んだ。
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