3

「わけは訊かないでくれるとありがたいんだけど」

 親友――親友の弁解など聞きたくはない。私は外套コートも脱がないで、ベッドに居座る間女に詰め寄った。

「……どういうつもりなの」

 胸倉を掴もうとしたが、あいにく女は裸だった。行き場のない拳が空中で震える。

「……うーむ」

 女――小野おのさわぼんは顎を撫でた。その隣で、すやすやと寝息を立てている女……大神おおがみおんはやはり裸で、この騒ぎにも動じていない。その穏やかな寝顔を見ていると、なぜだか無性に腹が立った。



 梓恩は私のだ。歳がひとつ下で、ちょっとぼーっとしているところがあって。たまたま講義のノートを貸してあげたところから始まって、最初は友だちだったのに、いつしか互いに、そういう意識を持つようになっていた。告白は彼女のほうからで、私は経験がなく、OKはしたものの戸惑っていた。探り探り、ついばむように睦み合った……それは、たしかに幸せな時間だった。

 一方で、梨梵が私にとって大切な友人であったということに異議はない。付き合いはやはり大学に入ってからだったが、高校の頃から引き続いて彼氏がいると言っていた。別にそんなことはどうでもいいから、梓恩とは別のベクトルで仲を深めていたのだが、あるときからの仲が急速に深まった。

 所属ゼミの違う二人の急速接近を不審に思っていた私だったが、理由がすぐに分かった。梨梵がこっぴどいフラれ方をして、梓恩がそれを慰めた、というのだ。よくある話だが、そこから先は梓恩も話してくれなかったし、何より、私がいながらそういう仲になることはないだろう……そう踏んでいた。私と梓恩がそういう関係であることは、梨梵も承知していたからだ。



 どうやら私は、親友の本性を見誤っていたらしい。手籠めか、寝取りか、最近妙に梓恩が冷たいと思ったら、こういうことになっていたとは。

「……」

「どうするの?」

「………ッ」

 怒りのやり場はどこにもない。この子は…梓恩は私の彼女で、それで、それで――?

 このまま首を絞めて、梨梵を殺してしまってもいいかもしれない。でも、そうすればきっと後悔する、それだけの理性が残っていたから、なおさらじれったかった。

 とりあえず。

「ッ!!」

「――痛っ」

 梨梵の頬を引っぱたいた。これで反省してくれる公算などあるはずもない。単なる自己満足だ。

「……ごめん」

 梨梵がようやくしおらしい顔になった。

「遅いよ、全部……」

 私は糸が切れた人形みたいに、フローリングの上に座り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る