燃える村

 村が燃えている。

 円形の、平地に造られた集落だから、延焼自体は速いが、かといって全焼するようなものでもない。

 火をつけたのはわたしだ。村の家、その材質から察するに、わたしが本気を出すまでもなかった。低級魔法をほんの少しばかり走らせるだけでよかった。今日は集落に残っている人間の数は少ない、そこまでは調査済みだ。人的被害は起きないだろう。


 とはいえ初期消火もままならない。火の手は上がり続けている。未だ、悲鳴も風に乗って聞こえてくる……わたしは木のに息を潜めていた。

「もしもし?」

 そのわたしに、声をかける者があった。今回の仕事で鳥人族ハーピーだった。風魔法を得意とする種族だ。魔力量は人間族ヒューマンのわたしとは桁違いだったが、肉体からだのほうは彼女のほうが脆かった。




 村の中に入る。ふたり分の耐火魔法はかけた。簡単な魔法で、効果時間は短い。

「……目的はわかってる?」

「一応ね」

「それじゃ困る」

 彼女は口を尖らせる。わたしは無視して先に進む。

「あ」

 そうこうするうち、眼前に目的の建物が現れた。

 ただし、盛大に燃えている。

「……」

「……」

 わたしの作戦が悪かったとでも言うつもりだろうか。彼女の目は非難の色を含んでいた。

「…そういうこともある」

 建物そのものに用はない。大事なのは座標、つまり位置だ。


 一週間前、王城の探知システムがこの村を指した。その後、より魔鉱石……この世界で「魔法」を使うために不可欠な鉱物資源。軍事力を保有する国家であれば、必ずと言っていいほどこれを追い求め、魔法使いによる兵隊を組織したがる。保有するリソースが多ければ多いほど、魔法部隊の練度は上がるからだ。

 埋蔵量はそう多くない。だが、いつ近隣国に狙われるかわからない位置に村はあった。先んじて確保しておかないことには、余計な戦争の火種となってしまう。

 彼女は背負っていたシャベルをこちらに投げて寄越すと、自らもそれを構えた。

「…時間がないわりに悠長な作戦だこと」

「わかってるなら早くして!」

「……耐火魔法の効力は10分。あなたが地中に風魔法ウィンドスペルを撃ち込んだほうが早い」

「本気で言ってる?」

 火の手はそこまで迫っている。このまま焼け死ぬつもりならどうぞ? わたしは肩を竦める。

「ちっ」

 舌打ちと共に、彼女は詠唱を始める。耐火効果の持続時間もそうだが、村人が戻ってくる可能性も考慮せねばならない。

 地面が隆起する。そこから離れて様子を見守る……地盤が沈む。

 あとは、掘り出して持っていけばいいだけだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る