闘将
「あやつをどうにかせねばいかん」
兵をいくら出しても、たかが一人に覆される。佐の国に隣接する
懸賞金も出した。当代限りだが政権を譲るというお触れも出した。誰も乗る者はいなかった。
模の軍は疲弊していた。もはや誰もが、佐の闘将を諦めていた。
しかしある日、一人の見目麗しい女が王のもとへやって来た。王も側近の兵も、皆目を奪われるほどに美しい女だった……彼女は、
「
女の話によれば佐の将は大変な横暴者であり、自らの力に驕って国内の勢力のいくつかを敵に回しているという。実のところ佐の国は分裂寸前であると。将はまた、その色欲にも際限がなく、女と見れば手を出すような色狂いだ、とも。
「ほう。つまり――」
「取引でございます。私がかの将を、どうにかして引き留めたいと思います。代わり、和平交渉に応じていただきたく」
和平交渉。不要な侵略で互いに憎み合うよりも、隣国として忌憚のない付き合いを続けていくほうが得策である……ということか。模王は渋ったが、しかし魅力的な提案であるということに相違はない。
「私には政治の手腕はありませんゆえ、かの将を
女は深々と礼をした。模の王は一切を承知し、模の未来を女に委ねた。
女は佐に戻ると、自らが夫、将と寝屋を共にした。そこで隠し持った短剣を、将の身体に突き立てた。
頑丈な将は、それでは死なぬ。その場で暴れるに留まったが、愛する許嫁に裏切られたことで、精神を病んでしまった。
佐の体制は一気に崩れた。兵の士気は下がり、国境より模の進軍を許した。結果として佐は事実上の模の属国となった。当初思い描いていた形とは違ったが、模は佐の攻略を成したことになる。
模王は、女に感謝をしたためたいとして、数ヶ月にわたる捜索を行ったが、ついぞ彼女が見つかることはなかった。ただ、風の噂によれば、女には将とは別の……心に決めて、想いを寄せた者がいた。その者と共に、国を去ったのではないか、とされている。
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