RISING
陸橋の下がステージになっているだなんて。尤も、そういった設備があるわけではなく、あくまで若者たちが何か……例えばストリートダンスとか、そういうことをして盛り上がるための場所だった。
彼女は私をそこに誘ってきた。元々社交的な性格で、物怖じをしない性格の彼女は、ちょうど暇そうにしていた私を飲みに誘ってくれたのだ。
陸橋にやって来たのは、その帰り際のこと。
「ここね、けっこー凄いんだよ。ベガスで踊ってるダンサーとか来たりしてさ」
「へぇ…!」
逆さのビールケースが、打ちっ放しコンクリートの壁際に置かれている。ここが台、ということだろうか。
考えたものだ。夜中まで人も車も尽きないこの場所は、多少騒がしくしたところで近隣からの苦情も受けずに済む。パフォーマーとか、まぁ…いわゆるパリピとか、幅広い層から需要があるわけだ。
「そうだ! ちょっと見てて」
「えっ…何する気!?」
彼女はバッグを私に預けると、どう見てもダンスには向かない服装で台に上った。私はてっきりパフォーマンスを見に来たのだとばかり。彼女はそのまま、かなり器用に逆立ちを始めた。しかも片手で。
「よっと!」
そのままブレイクダンスに移行する。凄い。ちょっとダンスを習っていたと言うが、これはその範疇をはみ出しているだろう。
「どう? 一緒に」
ひと通りターンテーブルみたいにぐるんぐるん回った彼女は、息も乱れたままに私の手を掴んだ。
「きゃあっ」
悲鳴をかき消すように、私の体が一回転する。彼女に腰を抱かれ、かと思えば彼女が下に来ている。踊る…あまり経験がないが、手を取られても悪い気はしなかった。
気づけばつられてステップを踏む。事前に飲んでいたおかげで、酩酊感が心地良かった。
何度か手を握り、打って、回して繋いで抱き上げて……すっかりいい気分で、10分ほどそうしていたか、彼女が不意に私にキスする。そして微笑む、そしてわけもなく、ああ、彼女らしいな、と思う……どこまでも開放的で、人なつっこくて。
終わってみれば、ちょっとしたギャラリーになっていた。カメラを構えている人もいる。彼女はそんなギャラリーにも手を振ったりしていたが、私は急に恥ずかしくなって足早に去ってしまった。
「あはは、ごめんね、つい盛り上がって」
後から追いついてきた彼女は弁解するように頭を掻いた。
「いいよ。別に気にしてない。それより」
泊めてくれる? 彼女は了承してくれた。
ふたりで、腕を絡ませながら歩いた。
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