ときめきのブロードウェイ
昼下がりの摩天楼は気怠げな眠気に満ちていた。
どこも同じか。
タイムズスクエアをほっつき歩くわたしに、ビルの隙間から陽光注ぐ。眠くなるな! というほうが間違っている。活気に満ちあふれたマンハッタンでも、そういう心境に陥るものだ。
こちらに越してきて2年。生粋の日本人であり、初等英語もおぼつかない体たらくであったわたしに職をくれたのは、現地暮らしの同じく日本人……
若宮女史は優しい。完全週休3日制を導入していて、木曜の夜にはタクシーで社に迎えを寄越してくれる。わたしはそれに乗せられて、マンハッタンで優雅な週末を過ごす。
(……とはいっても)
暇だ。こっちに友だちはいないし、家でTVやゲームをして引きこもっていればいいのだけれど近所で毎週末ホームパーティーをやっていてなんとなく家にはいづらい。そういうわけでわたしは街をぶらついている。
公園のベンチで半分意識を落としかけていると、ふと携帯電話が震えた。
ディスプレイには若宮さんの表記。思わず背筋を伸ばして応対する。
「おっ、お疲れ様です!
『あはは、そんな堅くならなくていいよぉ。お疲れ様……んでさ、橘ちゃん。今時間ある?』
「今……ですか」
もちろん暇である。
「…はい」
『んじゃさ、車で迎えに行くから、場所を教えてくれないかな。遊び行こーよ、久々にさ』
「はっ…はい! 是非に!!」
特筆すべきことではないかもしれないが、若宮さんは息も止まるような美人だ。その美人とデートに誘われるというのは、つまり緊張する。
突然、暇がとんでもない勢いで吹き飛んだ。服はこんなのでいいんだろうか。メイクは? してない! どうしようどうしようと慌てつつも、内心はうきうきだった。
間もなく、待ち合わせ場所にピンク色のオープンカーが滑り込んでくる。私はその助手席に乗り込むと、いきなりほっぺにキスを贈られる。驚く隙もなく、若宮さんはねぇ、どこ行こっか、と息を弾ませる。
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