亜空間炬燵 Ⅳ

 とにかく、異種族……たぶん……を拾って子を成そうとするなど、許しがたい蛮行だ。

「させません! そんなこと」

 わたしは気色ばんだ。キュイと拳を握り締め、コウモリの化け物と視線を突き合わせる。コウモリの化け物はニヤリと口角を持ち上げ、余裕たっぷりに言ってのけた。

「ほう……? なら、わらわを倒してみるがよい。さすればこの者はそちにやろう」

 代わりなど連れてくればよいのだ。化け物はそう言って笑った。地の底から響くような声だった。ここは塔の上だけど。

「いいでしょう。勝負の方法はどうします? さすがに殴り合いではわたしが不利です」

「一理ある」

「代わりにジャンケンなどどうでしょう? ルールわかります?」

「バカにするでないわ。石と鋏とトレーシングペーパーで勝敗を競う手遊びであろう?」

 トレーシングペーパーなんだ……。

「えぇ。3回勝負、泣いても笑っても、です。それで決着をつけましょう!」

「望むところよ!」


 1回戦。

「じゃん――」

「けん――」

 ポン! わたしはグー。化け物は……何これ!? 手の形が人のそれと違う!

「どれ!?」

「クッ…負けた!」

 勝ったらしい。

 2回戦!

「じゃんけん――」

「…ポン!」

「……トレーシングペーパー。わらわの勝ちじゃな」

「ぐっ…」

 確かに、わたしの手はグーの形を取っていた。

 運命の3回戦!

 互いの目に爛々とした光が宿る。瞬間、僅かにだが、化け物とわたしの間に相通ずるものシンパシーが芽生えた気がした。

 ――わたしは奪うために。化け物は守るために……一手を、叩きつけ合う。








「――ここは?」

「目を覚ましましたか、西脇にしわきさん」

「……丹波たんばさん!? そうだ僕は確か、うっ……」

「ああ、まだ動かないで! あなたはずっと囚われの身だったんですから……」

「囚われの……?」

「ふふっ。そうなんです」

 今わたしたちは、よくわからない階段のような所を登っていた。空の向こうに教授の顔らしきものが見えたから。そしたら階段がスーッと下りてきた。そこに足をかけたというわけだ。

「さあ、もうすぐです」

「頭痛が……」

 気づけば教授の顔がすぐそこに迫っていた。







 炬燵こたつは無事に廃棄処分となった。教授は名残惜しそうにしていたが、わたしがじゃあ中入ります? と提案すると首を横に振った。

 処分は業者に任せたが、そのときに亜空間被害が出たという報告は受けていない。亜空間への入口は閉ざされたようだ。記念にわたしと西脇さんがほうじ茶で乾杯していると、教授が亜空間七輪しちりんなるものを持ち帰ってきたので研究室を出禁にしたのだった。

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