虚勢か、それとも

「ユニット5、通信途絶」

「ユニット6、部隊の38パーセントが損耗。戦闘継続不可能!」

「ユニット9、敵部隊と交戦中」

「大隊長、指示を!」

 オペレーターがヘッドギアを外して振り返る。戦況は悪化の一途。元々勢力差に開きがあったうえ、敵の情報操作で味方はジリ貧に追い込まれている。わたしは震える手足を抑え、動揺を悟られないように指示を出した。

「ユニット6、後退。戦線を放棄してください。北方区域ノースエリアは捨てましょう。ユニット7は6と合流、ユニット5の救出に向かってください」

 ユニットは1から11までが現在交戦中。うちユニット3と4、いましがたの情報では5と6が戦闘不能。いずれも我が軍の精鋭を揃えていた……筈だが、敵はロイガルド帝国、圧倒的な兵力を投入して物量作戦で押し切るつもりらしい。逐次投入は愚策……わかってはいたが、本国から離れて同盟国の援軍も受けられず、かつ資源にも乏しい状況ではこうするより他になかったのだ。


 わたしは18歳の少女だ。まだ生まれて20年に満たない、いってみれば雛鳥も同然のひよっこだ。お父様は、おまえの力ならこの戦局にも対応できる、とわたしに元帥帽ジェネラルベレーを被せてくださったが、正直、精神的に限界が近かった。

 軍用コートの下で、泣きそうになる心に濶を入れる。泣きたいのは暖房の効いた司令室で戦況を見守っているだけのわたしではなく、現場で過酷な戦闘を強いられている兵士たちのほうだろう。わたしは折れてはならない。わたしが折れるのは、これ即ち、国の御旗が折られることにも等しい。

「ユニット10、部隊24パーセント損耗! 戦闘継続に難あり!」

「同盟国ベルマートとの通信が回復、救援の一個大隊がこちらへ進軍中です!」

「ユニット7撤退開始! 6との合流地点へ引き返します!」

 絶望と、そのなかにもわずかな希望を感じる報告が入り交じる。決断のときが迫っていた。

「……戦闘継続可能ユニット、残数は」

 手近のオペレーターに訊ねる。彼女ははっ、と軽く敬礼した後、口を開いた。

「ユニット1、2、8、9、11……大隊長のご指示があった部隊を除けば、5つです」

「よし」

 小さく呟く。


「――聞きなさい」

 厳かに口を開く。

「これより我が軍は、ノイルボーティア・帝国分割統治領からの撤退を開始します! 損耗の具合からいって、負けはあっても勝ちはあり得ないでしょう」

 司令室にどよめき。当然だ。皆、勝つことだけを考え、ここにいる。

 なればこそ、わたしの責務は――。

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