館の惨劇
大陸の端、つまり辺境の一角に、
エルフといえば長命種族だ。捕まえて売れば、それなりに金になる。そういうわけで
そして。
「あっけなかったな」
「くそぉっ……!」
そういうエルフは、えてして強い。人間など比べものにもならないほど、膂力、体力、精神力に優れ、多くの場合長命を生かして頭もいい。人間種とは根本からして違う。
グレースも人間社会に生きるエルフだった。同じ種族とはいえ一箇所に寄り集まって共に暮らすのは性に合わない。さりとて、人里に暮らすにはこの耳は少々目立ちすぎた。
「ハァ…ハァ……くそっ……」
グレースの屋敷に侵入してきた賊は、それなりに腕の立つ盗人のようで、鏃に毒を塗った矢を遠距離から射ち込むという離れ業で一時的にグレースの動きを止めた。それだけは称賛に値する。その毒がエルフの間で伝統的に用いられているものであり、万一毒を誤飲してしまったときに備え、耐性がつくように子どもの頃から少しずつ摂取しているために、グレースにはまったく通用しなかった…というオチがつくが。
賊は逆に、グレースによる毒塗りナイフの投擲で地に伏すこととなった。50がらみのひげもじゃの大男だった。脚の動脈に刺さったナイフの刀身は神経性の麻痺毒に塗れており、既に男は、動くことすらままならなくなっていた。グレースはその賊を踏みつけ、長い銃身の
「何をしに来た? 捕獲か、殺害か…どちらにせよ、わたしはそんなに易々とやられるつもりはない。そして――」
賊に刺さったナイフを引き抜く。獣のような悲鳴が
「この場合、死ぬのはお前ということになる。目的と、仲間の有無を聞かせてくれるなら…命を助けてやらんこともない」
見下ろすグレースの口角が上がった。
「……」
賊は何も答えない。ただ濁った目玉をぎろりと向けるだけだ。
仕方なく、グレースは引き金を引いた。ぎやあ、賊が再び悲鳴をあげる。銃声というのはよく響くものだ。自分の耳がかわいければ、続きを喋るより他にない。
「……西と、東に、ひとりずつ……だ……」
「ありがとう」
グレースは銃を背負う。神経を研ぎ澄ませ、歩き出す。東西には物見櫓が一つずつ。身を隠すとしたらそこだろう。
侵入を許した我が身を恨みつつ、エルフは狩りを再開した。
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