一期一会
「あの!」
帰り支度をしていた
「ありがとう……ございました、その…ええっと、助けてもらっ…いただいて」
言葉遣いすら覚束ないが、愛はひょこんと頭を下げた。なんのことだ、と一瞬頭を捻ったが、すぐに理解する。昼間の会議。たまたま隣に座っていた彩乃が、役員からの質問に答えられなかった愛に助け舟を出したのだ。具体的な内容は忘れた。勤続が5年を超えるような社員なら誰でも知っているようなことだった。
「別に…気にしないで、誰でも最初はそうだよ」
苦笑いして、言う。少なくとも態度は真面目で、助けてくれた相手にしっかり頭を下げられる愛がどんな
「は…はい! 今後は再発防止に……」
「そ、そういうのはあたしじゃなくてさ、もっと上のポジションに人らに言えばいいんじゃないかな。あたしはあくまで……」
助けてあげただけだし、と言いかけてこれは傲ってるかと思い直し、支えてあげた? も何か不自然だなと考えて。
「困ってる後輩、ほっとけなかっただけだし」
めちゃくちゃカッコをつけてしまった。愛の視線が、気のせいかとてもキラキラしているように感じられる。そんな目で見られると罪悪感が湧く。愛の性格なら、10年働けば今の彩乃よりもはるか上の
「……すごい」
「い…いやいや、あたしより対応上手い人いくらでもいるから」
それじゃ、と足早に退社を試みる彩乃のジャケットの裾を、愛があの、という呼びかけとともに引っ張った。
「それでその……もしよろしければなんですが、この後、奢らせて……いただけませんか?」
「奢………」
一瞬、揺らぐ。いやいやいや駄目だろう。申し出自体はありがたいがしかし、ひと回りも歳下に奢られるほど厚顔無恥な先輩ではない。
「…とんでもな」
「あっ…申し遅れましたが、わたしの実家、居酒屋経営してて。クーポン何枚かあるので、それを」
えへへ、と愛は笑った。ああ……そういうことか、と安堵の溜め息を零した。
「じゃ……お言葉に甘えて。どの辺り?」
「ここから
思わぬ
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