領主様の華麗なる秘密

 吸血鬼というと陳腐なモチーフだが、うちの領主様はである。


 はじめて聞いたときは耳を疑った。無理もない。私の家が代々仕えてきたご主人様が人ならざるモノだったのだ。驚くなというほうが酷であろう。思えば彼女、ゴーニット領領主ルライラ=デインズ様は、私が生まれてからの20数年間、ちっとも容姿に変化が見られないのである。吸血鬼疑惑……というより本当に吸血鬼なのだが、ルライラ様は、とにかくその優美たる容姿を維持し続けていた。


「失礼いたします」

 私はルライラ様のお部屋の扉をノックした。重々しく、華美な装飾を飾り付けた、威厳あふれるデザインだ。

「はいれ」

 代々デインズ家に仕える我がセイドーン家の役割は、何もルライラ様やそのお家族の身辺のお世話に留まらない。

「くるしゅうない。ちこうよれ」

「……その喋り方やめません?」

「えー」

 そして、ルライラ様が真面目で厳格な領主であるとも限らない。ベッドの上で

「いいですかルライラ様。あなたは1500年続く吸血一族・デインズ家の跡取り娘なのです。もっと自覚をもって……」

「ふあ~……」

「って聞いてます⁉」

 ルライラ様は先述のとおり容姿は可憐でスタイルも良い。外見年齢は20代半ばほどで、その美貌はもはや魔的だ。顔を拝むためだけに、海外から賓客が訪れることもある。

「難しい話は好きじゃなくてね。やることはきちんとやってるんだからいいじゃない。それより」

 ルライラ様は舌なめずりをすると、私をベッドへと招き寄せた。その身体には薄布が一枚纏わりついているだけだ。私はごくりと喉を鳴らし、ベッドへと歩みを進めた。私も同様に、素肌に薄布を巻き付けただけの格好をしていた。

「力抜いて。そう、いい子……ちょっと痛むよ……」

 ルライラ様は吸血鬼だ。だから、生き血を……なるべく歳若い生娘の血を吸うことで肉体の均衡バランスを保っているのだという。飲まないと死ぬ、なんてことはないが、体が不定形に崩れ去るとかなんとか…それは避けてほしい。

 首筋にルライラ様の犬歯が突き刺さる。僅かな痛みと皮膚を裂く感触の後、とめどない快感が襲い来る。蚊…に例えるのはいくらなんでも不敬だが、似たようなシステムで、媚薬効果のある麻酔を流し込んでいるのだという。

「あっ……――」

 すぐに私は腰砕けになった。ルライラ様の胸に身体を沈める。頭がぼーっとして、何も考えられない。ルライラ様はゆっくりと、私の髪を撫ぜつけるように指を這わせてくれた。

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