透明
しゅるり。鞭のしなるがごとき音が響く。夜のしじまを突き破り、不遜の怪物が姿を――現さない。その名を「透明」。まるで
本当に行くのか? 父の疑問は尤もだった。数年前に離婚して以来、父とふたりで慎ましくも幸せに暮らしてきた。態々年頃の娘が危険を冒しに行くときけば、おいそれと首を縦には振れまい。しかし、彼は娘と自分の妹の絆を知っていた。「透明」に攫われた妹の愛娘が、淳海によくなついていたことも。
「ごめん、父さん」
「言わなくていいさ」
今生の別れになるかもしれない夜、父は黙って淳海の背中を見送った。
数ヶ月後に自衛隊の派遣が控えているが待ってなどいられない。既にプロが派遣され、なお姿を消している。中学生の自分にできることなどたかが知れている。それでも、動かずにはいられなかった。
「淳海」
「
「ううん。今来たとこ」
「みんな、止まって!」
先頭を歩いていた女の子が鋭く言った。軍団は立ち止まる。同時、淳海も紗代も、唸るような鋭い声を聞いた。しゅるるる……独特な高音!
「――来た」
「透明だ!」
「うおおおおおっ」
「お姉ちゃんを返せ!」
「食らえ銀玉鉄砲!」
正体不明の「透明」に対し、めいめいが武器を振るう。「透明」は悲鳴をあげている。淳海もバールを叩きつけた。手応えがある。
「みんな、下がって!」
危機を直感したらしい紗代が呼びかける。「透明」が発する音が高所へと伸びる。同時、近くにいた男を吸い上げた。
「ぎゃあああっ」
淳海はバールを構え直した。
「第二ラウンド? 望むところよ!」
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