チョコレイト・ウォー エピローグ Ⅱ

「………」

 自分の身に起こった、この数ヶ月間のについて、私は未だ、心のどきどきを抑えきれずにいた。


 T-ティーEdgeエッジのとある曲が、私の過去と壮絶にリンクしていることに気がついたあの日。私にライブ会場まで足を運ばせたのは決して偶然が招いた結果などではなかろう。あの一致率、光景が浮かんでくるような、強烈なまでのデジャブ。学生時代の、淡くも大切な想い出だった……それが思い込みやまやかしであろう筈はなかった。

 とはいえ、実際にライブを見に行ったところでその疑問が解消されるわけもない。該当曲も聴いたけれど、デジャブ以上の発見はなく、バンドメンバーにも知った顔はない。だからライブが終わった後で私は、かなり思い切った行動に出た。インターネットブログを開設したのである。詳しい知り合いを頼って、拙いながらもどうにかレンタルサーバーで、文章や写真を掲載できるブログを綴った。内容は他愛もなく最近T-Edgeにハマりました! ライブも行きました! という程度のもので、怒られやしないかと思うほど簡素なものだったが、『キミがいた冬』について、学生の頃の記憶と一致しすぎていることを何度か、折に触れて話していた。

 結果、ブログ開設から2ヶ月ほどで、ひとりのファンの方が食いついてきた。私はその人と個人的にやりとりしつつ、互いに情報を交換し合った。

 しばらくして送られてきたメールは目を疑うような内容だった。それも良い意味で、だ。

『ご無沙汰しております。「T-Edge」のいちファンとして交流を続けさせていただいていましたが、実は当方、ベースのHi-Ragiヒイラギと個人的な交友があります。「キミがいた冬」は彼女の作曲で、ご都合が合えば彼女とお会いいただくことも可能です。つきましては――』

 確かそんな内容だったと記憶している。そこからはとんとん拍子だった。Hi-Ragiさんと会い、あの曲の歌詞について確かめた。私と同い年だという彼女はよく笑い、よくしゃべる人で、どことなく私の彼女だった人と近い雰囲気を感じた。

「知り合いから聞いた話を元にしてるんです。使っていいよって言われたから……」

 よければご紹介しましょうか? 申し出に、私は興奮を抑えながらお願いします、と言った。



 今日、彼女と会う。おそらくはあの頃、付き合っていたひとだ。

 待ち合わせの喫茶店に着く。入口で、女の子ふたりが自撮りしていた。あんなこともしたっけか。思い返す私に、懐かしい声がかかった。

「――あの!」

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