もふもふ
怪奇サイトの、雪男! とかミュータント目撃! だとかいった情報を頼りに、日本全国を飛び回る。
「次は……ここか」
日本海側の寒村からさらに北上、人などおおよそいなさそうな土地に、私の親友は住んでいた。といっても、定住しているわけでもなければ、本人から連絡が来るわけでもない。そもそも親友は――私の親友は、人ですらない。
何度目の正直、とばかりに、竹藪をかき分けて進む。親友に会うけれどこんな感じでちょっとした冒険なのでおしゃれなどしていない。作業着だ。それで構わない。親友には、光を認識する器官が存在していない。
「……いた」
熊のような図体の、白い毛皮の怪物…としか形容しようのないものが、こちらに背を向けて座っていた。あれが私の親友だ。
「おーーい!」
巨体……ゆうに2メートルはありそうだ……が、ゆっくりとこちらを振り返る。顔は存在しない。空気を取り込んでいるらしい、びっしりと毛の生えた小さい穴が口を開けているばかりである。
彼……いや彼女である可能性も否定はできないが……は。ふごぉぅ、と空気を吸い込むような音を発し、ゆっくりと膝を伸ばして立ち上がった。が、すぐにバランスを崩してつんのめる。素早い動きは得意ではないのだ。丘ぐらいの身体を揺すりながら、ゆっくりゆっくり移動する。
「慌てなくて良いよー!!」
思わず駆け寄りながら、私も草に足を取られてすっ転んだ。
「ぷっ……」
「ぶう、うおぅ」
「…あっはははははは!」
「ぶぉう、うおぉう、ふぉう!」
そうして、どちらからともなく笑い出した。
綿を千切ったような真っ白い雲がそのまま青空を泳いでいくような、良い天気だった。
「お土産持ってきたの」
近くにあった廃屋の縁側に並んで座りながら、わたしは親友にタッパー詰めの油揚げを差し出した。
「ぼぅ?」
「毒じゃないよ。食べてみな」
親友は物も食べる。ヒトが食う物ならおおむね何でも。でかい身体に似合わない、細いけどたくましい腕でつまみ上げる。そして口に放り込む。
「…むうぉう、うぉおう!」
「よかった!」
喜んでいるようだ。胸を叩く仕草でそれがわかる。ゴリラのドラミングに似るが、実態はわからない。怒っているわけではないらしい。
親友の正体についてはわからない。少なくとも生物ではあるらしい。とある雨の日、自宅前で倒れていたのを治してやってから、交流が始まった。
流れる雲を見ながら、一緒に昼寝する。親友のお腹の毛は暖かい。私が寝返りを打つ度、親友はくすぐったそうに身を捩った。
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