淡雪の恋
「――きれい」
口をついて出ていた言葉は、心からの、飾り気のない
こんなにきれいなものを見たのは生まれて初めてだ。白無垢姿の親戚のお姉さん。名を
ただ、涼香はあまりにも美しかった。
綿帽子の下、それに負けないくらい白くきれいな涼香の顔があって、曲線を描くのが見えるほどに長い睫毛は静かに伏せられていた。すっきりと通った鼻筋、形のいい唇には眩しいばかりの朱が引かれている。
普段の涼香は気さくで、ヨレヨレのTシャツとショートパンツでフラフラと遊び歩いているような性格で、そんな涼香は央美も好きだった。歳は離れているけれど、自分の相談には乗ってくれるし、何より子ども扱いというやつをされたことがない。大型スクーターの後ろに乗せて連れ回されたこともあった。楽しかった。つまりは、涼香は新しい世界を見せてくれる、お姉さんというより歳の離れた物知りな友だちで、それが揺らぐことはないと信じていた。
なのに、それなのに、今の涼香は言い表しようもなくきれいだった。高砂に着座し、親族友人による歓談が始まってもなお、央美は花嫁から目を逸らすことができなかった。人形のような顔つき、佇まい、親戚や友人と会話を交わすときに見せる笑顔、朱の隙間から除く白いばかりの整列した歯……そのすべてが、この世のものとは思えないくらい魅力的で、神秘的だった。
豪華な食事が出されても、
その感情が、いわゆる恋の、一目惚れのそれに近いものだと気づいたのは、式が終わる頃になってからだった。
「遠くに引っ越すわけじゃないし、会おうと思えばまた会えるよ」
「…だよね」
別れる前、服を着替えた涼香にそう言われた。視線の意味を、別離の寂寞ととったらしい。違うの、とは言い出すこともできなかった。
「じゃあね! また遊ぼ!」
「うん! 絶対だよ!」
夕陽に照らされて、涼香の乗ったタクシーが右折していく。テールランプが角を曲がったとき、不意に央美の視界が滲んだ。
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