黒き彩
「私は好きだよ、蛙の卵。かわいいし……」
それはフォローになっているのだろうか。とにかく気に入ってくれたのなら、それに越したことはない。彼女の白い首元を彩る黒瑪瑙はやはりよく似合っていたし、何より彼女自身が、何物にも代えがたいほど美しかった。
今で言うと「蛙の卵」はタピオカになったりするのだろうか。彼女が啜るストローの中身を見つめながら、そんなことを考える。
「どうしたの? じっと見て」
「え、そんなに見てた?」
彼女は不思議そうに小首を揺らして、見てたよ? と返してきた。その首元には、私があげた黒瑪瑙が光っていた。
「んー……かわいいなって」
「……もう!」
にへら、と笑ってみせると、照れ隠しのパンチが飛んできた。
「いいよね、たまにはこういうのんびりデートも」
「だねえ」
波止場を眺めながら、ふたり仲良くタピオカミルクティーを啜る。夕暮れ時の港は、スピーカーから懐かしいジャズ・ミュージックが流れてきて、そこに船の汽笛が合わさる。このうえなくムーディだ。
当初はウィンドウショッピングと散歩が中心のデートに難色を示していたアウトドア気質な彼女も、のんびりと時間を過ごす素晴らしさに目覚めてくれたようだった。
「でも、今度は山行こうね」
「うっ、忘れてなかったか」
「今週お願い聞いてくれたら、次は好きなとこにしていいって言ったのはあんたでしょうに」
口を尖らせて反論してくる。かわいい。反則。家帰ってから覚えとけよ。
私としては、その黒瑪瑙がより輝くような場所に行きたいし行って欲しいのだが、無理強いなどできようはずもなく。というか、黒瑪瑙が目立つ格好、イコールある程度首元が見えている衣装、ということになり、この文脈では私が単にすけべな女であるということになってしまうではないか。いかんいかん、と邪念を振り払う。無論そういう気持ちがないではないが、だからといってネックレスを着けたままコトに及ぶなんて…。なんの話だ?
「……まぁ」
ひとり慌てる私を尻目に、彼女は水平線を見つめながら、言葉を紡いだ。
「その次は、好きにしなよ?」
……ありがとう。告げる代わりに抱きついて、やっぱり怒られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます