快眠業者 Ⅻ
消えない蝋燭。それは
探偵に連絡を入れたが、もう依頼しないでくれと必死で懇願された。洋館から帰ったあと、すぐに体調を崩したらしい。呪いの類ではないか? と声をかけると、悲鳴のような声でそんなわけないでしょう、と電話を叩き切られた。加奈が悪いとはいえ、あまりにノミの心臓ではないだろうか。仕方なく、調査の続きは加奈が実行することになった。
次の週末、加奈は電車で隣町を訪れた。洋館は規制ロープも張られず、そこに存在していた。蝋燭を盗んだという罪の意識は消え失せ、純粋な興味だけが加奈を突き動かしていた。
前と同じように洋館へ入り、ホールから階段を昇る。相変わらず人の気配はないが、加奈は妙に嬉しかった。浮足立っている、そう言い換えてもいいかもしれない。この蝋燭の次は、一体何が待っているのだろう?
鼻歌さえ歌いながら、蝋燭のあった部屋のドアを開く。
「えっ」
中は真っ暗だった。灯りが消されていたのだ。
(どういうこと……?)
周囲を見回す。ここがいかにもな雰囲気の洋館であることを除けば、とくに怪しいところはない。
「蝋燭……置いてこなきゃ」
訳もなくそう思った。そして、今は闇に包まれた部屋の中に入った瞬間……加奈の視界がブラックアウトした。突然に、なんの前触れもなく、意識が落ちた。
身体を締め付ける感覚で目が覚めた。いい目覚めとはいえない。そういえばここのところ、あまり眠れていない気がする。何だっけ? 何か原因があったような気がするんだけど……。
瞼を開く。最初はぼやけていた視界がやがて、鮮明になっていく……飾り気のない洋間だった。フローリングと天井の間の四方に、白い壁紙を貼られた壁があるだけ自分を締めているのは、蛇のように長い胴体の……いやおそらく蛇だ。加奈の身体に巻き付いている。一般的な蛇と違うのは、人間の太ももくらいの太さがあり、かつ体そのものが半透明であるということ。実体がない? ひょっとすると、あの蝋燭も似たようなものだったのかもしれない……と思ったところで、ドアの開く音がした。
「……やっぱり、貴女でしたね……もう関わってはならないと言ったのに」
老人のような声が、そう言った。
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