チョコレイト・ウォー Ⅲ

「ええと……Tティー-Edgeエッジ……だっけ」

 ラップトップを立ち上げ、おぼつかない手つきで検索欄に文字を打ち込んでいく。このマシンでやることなど限られている。撮った写真の整理くらいだ。

 T-Edgeの情報はすぐに出てきた。公式、と銘打たれたページをクリックする。黒背景にマゼンタの文字が踊っている。

(ち、チカチカする!)

 目をしばたたかせながら、どうにか画面をスクロールする。

(えーと……メンバーは……)

 5人のガールズバンドだ。ベース、キーボード、ドラム、ギター、そしてヴォーカル……構成自体に変わったところもない。しかしながらメンバーは金髪、橙髪、白髪にアシッドピンクのメッシュ……と個性的な髪色をしていた。

「すご……」

 とにかく……偏見かもしれないが……おそろしくパンクで、ロックなバンドだと感じた。いわゆるヴィジュアル系、というのか…わたしとは、住む世界が違いすぎる。それでも、曲の正体がわたしの思い出と一致しすぎている以上、探りを入れ続けるしかない。バンドメンバーの名前はHIMEとかNATSUとか、そういうアルファベット表記のものばかりで要領を得ず、本名の記載もなく、顔写真や全身写真も暗いスタジオで撮影したのか、ハッキリと表情の見えるものはなかった。

(……偶然だったのかな)

 昨日ラジオで聴いたきりで、ただ、脳の底にこびりついているような思い出と重ね合わせてしまっただけで。考えすぎ、自意識過剰、思いつく言葉はいくらでもある。

「でも」

 気になる。このバンドは他にも曲をリリースしているようだ。そういえば、ストリーミング配信サービスのアカウントを持っていた筈。その配信サイトにT-Edgeの曲があるかどうかはわからないが、探してみてもいいかもしれない。

 と。

「バレンタイン・コンサート……?」

 とある野外ライブ会場を貸し切って、2日間の単独ライブを行うらしい。メンバー総出演、セットリストは不明だったが、チケット販売中! との文言にリンク先が設定されていた。

 クリックする。チケット販売のサイトに飛んだ。

「……まだ売ってる」

 1月の終わりかけ。チケット代は高価で、にもかかわらず在庫は残りわずかだ。

(チャンス、なのかな)

 元カノが……かつてわたしの恋人だった彼女が、バンドとして有名になり、名声を得ているのだとしたら。


「見たい」。その姿を、ひと目でも。



 お申し込みが完了しました。気づけば、その画面が表示されていた。配送は5日後。緊張が全身に走っていた。

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