歳下の女の子

 十数年ぶりに親戚の子……手っ取り早くいえば、「姪」と会うことになった。

 最後に会ったときはまだおしめをしていたような気がする。なにぶん当時の私は小学5年生だ。しっかり覚えていようはずがない。

『任せられる心当たり、あんたしかいなくてさ』

 姉は電話口でそう言った。

「子ども連れてけないようなとこに何しに行くの?」

『4泊5日でルーマニア。仕事だし、真由まゆ一人でもホテル代とか馬鹿になんないし、第一私らの都合に付き合わせるのはいくらなんでも気が引けるし、かといって女の子一人家に残すわけにもいかないしね』

 真由。そうだ。そんな名だった。赤ちゃんの頃、抱かせてもらったことだけはよく覚えている。成長してどんな風になっているのだろう。楽しみだ。

『じゃあ、お願いね』


 楠木くすのき真由は、それなりにいい教育を受けて育ってきたらしい中学2年生だった。行儀は良く、所作も丁寧である。

芽衣子めいこさん、洗濯物干しておきました。次は何か……」

「ありがとう、ていうか休んでて、のんびりしてて。うちで無賃労働させてるのバレたら私半殺しにされる」

 おまけに私がだらけていると、ちゃっちゃと家事を済ませてしまう。これはもうとびきりのご馳走を用意してやらねば、と思うが、父が外資系企業のやり手リーマンであることを考えると、私が作れるものなどほぼ残飯と変わりあるまい。

「ふふ…」

 しょーもないギャグにもくすくすと笑ってくれた。真由は清楚を絵に描いたような美少女で、横暴……暴力的な姉のおなかから彼女が産まれてきたとは、どうにも信じられない。

「では、少しおいとまを頂いてもよろしいでしょうか? この辺りは普段、あまり来ない地域なのでいろいろと見て回りたいのです」

「そりゃ、いいけど」

 なんてことだ。話し方まで優雅にされると私の立つ瀬がない。

「ありがとうございます。帰る時間になったら、連絡いたします」

「む……迎えに行こうか?」

「いえ、自転車を持ってきていますので。では」

 真由は頭を下げると、にこやかな微笑みをたたえて私のワンルームマンションを辞した。


 ……けた。

 完敗だ。まず、美人。顔がいい。完璧な大和撫子。無礼さなど一欠片もなく、年齢を感じさせない落ち着きで、一挙手一投足が「みやび」のソレだ。家事のレベルは遠く及ばない。私にできること? もうない。

 その後、真由は私の好物のドーナツを買ってくるというファインプレーをもって、歳上の自尊心を全て打ち砕いた。どうにかしてこの娘をうちの養子にする手立てはないだろうか?



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