再会

「あ」

「おーっす」

 親友との10年ぶりの再会は、それこそブランクを感じさせない挨拶から始まった。


「変わったようで変わってないねえ」

「何それ。そっちこそ……痩せた?」

「5キロほど、ね。職場が肉体労働だから」

「それはそれは……お疲れ様です」

あんは? 事務職?」

「うん」

 船橋ふなばしかおりは、ライトブラウンに染めたポニーテールを揺らし、当時と変わらぬ口調と声音でわたしと会話していた。服装が制服じゃないってことを除けば、あまりにも当時のままで、一瞬幻覚を見ているんじゃないかと錯覚をおぼえるくらい。


 香から会いたいと言ってきた。母親が大病を患い、年末には入院するという。それまでに、旧友や恩師など、世話になった人に会っておきたいというのだ。

 自分で言うのも変だが、わたしと香は最高の親友で、いつどこで何をするにも一緒だった。部活も生徒会も、親やきょうだいと喧嘩した日にはお互いの家に泊まったりもしていたっけ。大学以降は自然と疎遠になり、年末年始の挨拶を交わすかどうかも怪しかった仲だが、今こうして顔を突き合わせて、変わってないことにお互い安堵する。

「どこ行こっか。映画館とか?」

「今面白いのやってるんだっけ」

「うん、確か韓国の……」

 学生時代もこんなことをしていたような気がする。つまり、変わっていない。


 ショッピングモールで映画を観て、そのあとでフードコートに降りてパフェをつつきあう。幸福で満ち足りた時間が流れていた。距離感の変わらない、いつまでもこうしていたいという子どもみたいな欲望が頭をもたげた。

「島根に行くんだっけ」

「そうそう。ここから400キロ。遠いのなんのって!」

「あははは」

「お母さんの実家があるから、療養もそこがいいだろうって、お父さんがね」

 香の母親にはお世話になった。わたし専用の布団は今でも押し入れに入っているのだろうか。

 ストローでジュースを吸い上げながら、香はふと、懐かしいなぁ、と呟いた。

「ここのモールもさ、私らが卒業するときにはまだ工事中だったよね」

「そうそう! 毎朝駅降りるたびにうるさくて! でも卒業式のときには工事のおっちゃんたちがさ……」

 顔を合わせて会話が弾んで、あのときみたいに笑い合って。

「あ、そのジュースひと口ちょーだい」

「じゃわたしもー」

 ジュースを交換したり、お揃いのシュシュを買ったりする。




「じゃあ、元気でね」

「香もね」

 別れ際に伸びた影に向かって、またね、と声をかける。夕陽に照らされた、長いシルエットが手を振り返してきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る