チョコレイト・ウォー Ⅰ
雨の午後はラジオの音楽チャンネルをつける。屋根を叩く雨滴とノイズ混じりの音声が合わさって、なんともいえない風情を醸し出すのだ。
予定さえなければ、わたしはそうすることにしている。軽妙な語り口のDJが、週替わりでトークとリクエスト曲の放送を受け持っていた。ゲストを迎えることもなく、変な茶番を差し込むこともない。ただ粛々と放送を続けていくだけの、余計なことをしないスタンスの放送は、視聴者から根強い人気を誇っていた。
『リクエストいただきました、
哀愁漂うギターソロが10秒ほどのイントロを奏でる。最近の曲だろうか、わたしは知らない。このチャンネルがそんな流行歌を流すのは珍しかった。そもそも、わたしはあの日以来、流行を追うことも止めていた。
イントロからハミング、続いて落ち着いたリフをバックに歌が流れ始める。
『雪舞う空を見ると キミがいた日を思い出すよ』
ちょっと驚いた。雰囲気からして男性ヴォーカルだと思っていたが、おそらくはまだ歳若い女の子だ。ややハスキーながら安定した高音で、かつキンキン声にならず耳心地は良い。
『街角の喫茶店 展望台のある公園 あの頃はふたりどこまでも行ける気がして』
失恋がモチーフだろうか。ワイルドな音構成の中に際立つクオリティがある、いい曲だった。
……それ以上に何故か、わたしの胸をざわつかせるものもあった。
『海の見える街 キミはいつか 僕を連れてくって叫んで』
(……これ)
喫茶店、展望台、海の見える街、パーツが繋がっていくような感覚が走った。
『白いカーテンの向こう ずっとこんな日々が続けばいいのにねって 笑い合った冬空の下いつまでもふたりで!』
叫ぶような、叩きつけるような熱量のヴォーカルで、いやそれ以上に……あまりにも一致していた。これは、わたしの歌だ。わたしが女の子と付き合っていた頃の、わたしと彼女の歌だ!
『いやぁいい曲でしたねぇ。この季節にピッタリだと思います。続いての曲は……』
DJの話は頭に入ってこなかった。
中学、高校と、わたしには彼女がいた。背丈が低くて、男勝りで、でもすごく澄んだ声の、わたしが大好きだった
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