Bind You
サテン地の感触を肌に感じて、目覚めた。
手にインナーショーツを握っていた。寝起きのぼんやりとした頭で、昨夜の出来事を整理する。
「あー………」
思い出してきた。
いい加減、行きずりの女の子を引っ掛けて抱くのをやめにしないとな……とこういうことがある度に思っているが、改善されることはない。あたしはあくまでコミュニケーションの手段、一環として、年下女子と寝ているだけだ。そこにいくばくかの趣味嗜好……有り体に言って、性欲が影響を及ぼしているかと問われれば、遺憾ながら否定はできない。
(……トイレ行こ)
ここはどうやら区内のラブホテルらしい。内装に見覚えがあった。身体が重い。何回シたのか見当もつかない。とても好みの娘だったのは覚えている。連絡先くらい聞いておいてもよかったかな……と。
「なんだこれ」
立ち上がったところで下半身に違和感を覚える。あたしの下着ではない。
これは、ひょっとして拘束具⁉
戸惑っていると、見計らったようにスマホが鳴った。知らない番号。恐る恐る通話ボタンをタップする。
「…………もしもし」
『――さん?』
電話口からは、可愛らしく、でも冷たい声が、あたしの本名を告げた。あまり記憶はないが、昨日の娘と声が似ている……名前は明かさなかった筈。名刺を漁られたか。
「……はい」
『お元気?』
「……まぁ」
股間のコレが外れないということを除けば、健康は健康だ。
『予想はついてるわ。貞操帯が外れなくて困っているんじゃない?』
「よくお分かりで。その口ぶりだと、外す方法についてはあんたが知ってそうだね」
『タダでというわけにはいかないわ』
「だろうね……目的は?」
『もう女の子に手を出さないで。あなたに泣かされた娘は星の数ほどいるわ』
「……」
難しい。あたしのライフワークなのだ。やってできないこともないだろうけど、禁煙中のニコチン中毒者みたいになるであろうことも容易に想像がつく。しかし条件を飲まなければ、あたしは一生、排泄行為とも性行為ともおさらばしなければならないだろう。
「……わかった。もう二度と行きずりの女の子に手は出さない。ちゃんと手順を踏んで、お付き合いをしてそれから――」
『そんな紋切り型の口約束じゃダメ』
「…他に何が」
『私とよ。私と付き合って、女誑しさん?』
「……」
こいつは。予想だにしない条件に、あたしは天を仰いだ。
『忘れられないのよ、あなたが……ねぇ? 強情はやめましょ?』
蠱惑的な声。あたしはどうやら、重大な選択に直面しているらしかった。
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