しあわせな子ブタ
街中で、貴女の残り香を感じて思わず振り返る。
そんなラブソングの歌詞みたいな経験を、
既に前の彼女と別れて半年が経っている。今現在はフリーとはいえ、そんなに引きずるとは我ながら思っていなかったので、そのことに対してショックを覚えた。
「嘘でしょ………」
正確には残り香ではなく、フラッシュバックの一種だ。街中ですれ違った女の子が首にかけていたのが、前の彼女が大好きなブランドのネックレスだった。元はアメリカン・カートゥーンのキャラクターだったものが、日本で人気を博したためにアニメ会社が権利を買い取って、単体でブランド化された。かわいらしい子豚のキャラクターで、わたしの目からはイロモノにしか見えなかったけれど、彼女はよくカワイイ! と愛でていた。
(いい歳こいてそんなダメージ受けてるっていうのもアレだけどさ)
わたしと彼女で、唯一といっていいほど趣味が合わなかったのがこの子豚だった。それが、別れてはじめて彼女を想起するものになるだなんて。悔しいったらありゃしない。
あまりにも悔しかったので、というか悔しかったのに、気づけば原宿の専門店に来ていた。なんで? 我が事ながら理由が解せなかった。同一化、とかだろうか。別に彼女みたいになりたいと思ったわけじゃないのに。
「…いろいろあんだな」
店舗は2階建てになっていた。BGMとして、元になったカートゥーンのアニメ版オープニングテーマのインストゥルメンタルが使われている。なんだかんだ言って、アニメ自体はわたしもよく子どもの頃に観ていた。懐かしい。
(……もうちょっと素直になってれば)
ふと見つけた弁当箱を手の中で転がしながら、少しばかり郷愁に耽った。せっかくだし、なんか買っていこうかな。できればソレとわからないようなものがいいな、そう、わたしはなにせ、この子豚のキャラクターがあまり好きではないのだから……いや、もう好きになっているのかも……。
「……よし」
熟考の末、ノック部分が子豚ちゃんを象っているシャーペンを手に取った。さっきのお弁当箱はさすがに勇気が湧かなかった。
「ええと、じゃあ芯も買わなきゃ…あっ」
「きゃっ」
誰かと肩がぶつかる。そう広い店内ではないから、むべなるかなといったところか。
「すいません、ここ初めてで……」
「すすすいません、私もよく見てなくて!」
あれ?
おそるおそる顔を上げる。聞き覚えのある声だったから。
「あ」
「……うそ」
……彼女と、再会してしまった。
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