タイムカプセル
「君、何してるの?」
声をかけられて、はっ、と振り向く。
自転車に乗った駐在さんが、こちらに懐中電灯を向けていた。
「え…えっと、あの、その……!」
考えてみれば真夜中、一心不乱に地面を掘っている女の子なんて職質対象以外の何者でもない。わたしが無邪気に言い訳を探しているのを、すっかり頭頂の禿げ上がった駐在さんは不思議そうに見つめていたが、ごめんなさい! と叫んだわたしが脱兎の如く駆け出すと、待ちなさい! という声をはるか後方から飛ばしてきた。その頃にはもうわたしは通りを横切って、現場は遠く背中の向こうになっていた。
「もしもし
声を潜めながら妙子と電話する。わたしたちはとある重大なプロジェクトを遂行している真っ最中なのだ。
電話を切る。ふー……と息をつく。親の目を盗んだ次は国家権力の目を盗まなければならないとは。時刻は夜中の2時。女子小学生が行動するには遅すぎる時間だ。お母さんから借りてきたケータイで妙子と連絡を取り合って、この
「……ふう」
「これで最後かな?」
妙子が地図を広げながら言う。
「たぶんね。漏れがなければ…さっきのクリーニング店の裏手でラストだよ!」
「ふぅーーーっ…………疲れた!」
「お疲れ、妙子!」
「
「あははは…」
「笑えないよ……」
妙子とわたしは同級生で、いつも一緒にいる幼馴染だった。二人揃って来年で小学校を卒業するので、何か親友らしい、特別な思い出作りがしたい! ということになり、わたしのほうからタイムカプセルを提案した。校則では許可されていないが、ならば隙を突けばいいだけのことだ。
「じゃあ……」
「10年後、みんなで…ね」
「うん!」
わたしたちは、見つめ合って微笑んだ。妙子はわたしのほか、クラスメイトを巻き込んでくれたのだ。お陰でタイムカプセルも大ボリュームになった。手分けして埋めるのには苦労したが、掘り出すときにスタンプラリーみたいにして回れればいいな、と思ってのことだ。
いつかこれは、わたしたちを象徴するものになるだろう。
「……だったらどうして地図を紛失するのかな?」
「……いや、区画整理とか色々あったし、今ならスマホでいくらでも……」
「位置覚えてなかったら意味ないでしょ!」
「ごめん…………」
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