渦中

「……なるほどね」

 ハメられた、というわけか。わたしは腰の剣に手をかけた。崩れた石垣、廃墟となったこの辺り一帯は死角が多い。野盗が待ち伏せをするにはうってつけだろう。

 問題は、わたしが金印を持っているということが筒抜けになっているという点だ。小国とはいえ王家の宝物……もし喪失するようなことがあれば、一国の存続に関わる。

 この場の選択肢は「戦う」以外にない。しかも、おそらくは目算で10を超える数を相手に。

 相手は全員女だった。筋肉質な体型、胸と股間だけを鎖帷子かたびらで防御した簡素で身軽な装備。得物は短剣か長剣、丸盾を持っている者もいるが、大半はことしか頭にないようだった。

「さて……どうする? 大人しくそいつを渡してくれればあたしらは引き下がるんだけど」

 リーダー格らしい、身体と態度のひときわ大きな金髪の女が話しかけてくる。房のついた、バイキング風の兜を着けているのはこいつだけだ。

「そうしたいところだけど……傭兵ってのは信用商売だからさ。ここで退くと仕事が来なくなる」

 最悪、処刑されかねない。

「そうかい」

 返事はそれだけだった。直後、どこからか弓手が矢を射った。反射的に躱す……風を裂いた唸りが聞こえなければ、今頃貫かれていた。

 2本目以降は来なかった。代わり、前から後ろから、畳み掛けるような攻勢があった。軸足で回転、手前の五人を横切りにする。

「ぎぇっ‼」

 鮮血、悲鳴。くの字に折れた身体を突き飛ばして包囲網を脱出する。ひとりひとりを相手にしているヒマはない。雄叫びをあげながら、ある者は弾き、ある者は刺し、斬って、倒した。


「……まだやる?」

 7人ほどを沈めた。リーダーを除いた2人……弓手と、大盾に短刀を構えた未熟そうな奴。向かってくることはなかった。

「交渉に移ろう」

 ぐるりと向き直る。それだけでも重労働だった。受けた手傷は決して浅くない。関節という関節に激痛が走り、腹も脚もぬるりとした血に濡れている。気を抜けば意識を手放しそうだ。

 血が足りていない。

「……驚いた。強いな」

 やられた仲間たちを見ても、リーダーは眉一つ動かさなかった。わたしはきっさきを突きつけた。

「わたしがここを通ると、どうやって知った?」

「尋問する気? その傷でか」

 女はせせら笑う。わたしも笑い返した。優位に立った気でいる。

「…………できるよ」

 連発式の拳銃を引き抜いた。銃口を真っ直ぐに、女の額に向ける。リーダーの女はたじろぎ、忌々しげに武器を捨てた。

「じゃ、教えてもらおうか」

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