告白

「それはそうと」

 レストランでの食事中、あきはそれまでの会話を切り上げて唐突に言った。

「いつになったら、コクってくれるわけ?」

 私は、白ワインのグラスを傾けたまま硬直した。



 秋菜と知り合ったのは2年ほど前。学部は違うが同じサークルで、学年が同じだったこともあってか自然と仲良くなった。

 それで、気がついたら彼女のことを目で追うようになっていた。女性を好きになったことについて、別段の驚きはなかった。ただ、そう意識するようになってから、秋菜の顔を見る度に心臓が跳ね上がるのには少し辟易した。

 よく二人で遊びに行った。なんとなく、この想いは悟られまいと振る舞っていた。それでも、ふとした拍子に顔が近くなると、どうにもドキドキしてしまって、この関係を続けたいような、続けたくないような、微妙なラインを反復していた。


 一般的な友人関係というものがよくわからないから、秋菜と私が世間的に見てどういう位置にいたのかもやっぱりわからない。少なくとも秋菜にとっては、私の好意はモロバレだったらしい。



「……うぅん」

「煮えきらないなあ」

 魚料理ポワソンを切り分けながら、秋菜が苦笑してみせる。顔がとにかく整っている。アジアンビューティーというやつだろうか。濃いめの赤いルージュも、三日月形のイヤリングも、薄い金のインナーカラーのショートボブも、下品にならずよく似合っていた。むろん好きなったのはそこだけではない。ないが、顔を好きになれなければ、当人を愛することは難しいのではないだろうか。

「じゃ、逆に訊くけど……そうやって促されて告白して、ていうか、秋菜は告白されて嬉しいの?」

 咀嚼しながら、秋菜は首を傾げた。そしてごくんと嚥下して、一言。

「……わかんない」

 ……なんだそりゃ。なら、そんな催促は無意味じゃないか?

「でも、きよがそう思ってくれてるのは嬉しい、かな」

 そう付け加えて、にへ、と笑ってみせる。いきなり告れだなんて言うから、てっきり業を煮やしているのかと思ってしまった。

「……秋菜は」

 秋菜はどうなんだろう。私のこと、好きでいてくれてるのだろうか。私がそうであるように、私にドキドキしてくれているのだろうか。私のことで心を掻き乱されてくれているのだろうか。

「どうなの。私のこと」

「好きだよ?」

「いや、ちがくて」

「違わないよ」

 ぐい、とワインを飲み干した秋菜と、目が合った。真っ直ぐで、澄んでいた。

「……同じ気持ちなら、清海から言ってほしかったんだ」

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