高嶺の花のお戯れ

「どう? 今夜……もし暇なら」

「そ、そんな私なんかが……」

「何言ってるんだよ。君だからこそ……さ」

坂本さかもと奈々美ななみ15歳。中等部3年。学年一のイケメンに、白昼堂々の壁ドンをされていた。


ここはセントマリアナ女学院。全国よりよりすぐりの才女が中高6年間に渡って淑女レディとしての規律と振る舞い、そして国際社会においても恥じることのない嗜みを学ぶための全寮制お嬢様学校である。

その中でも、とりわけ花形とされる乗馬クラブのキャプテン・かみしずくが、奈々美に迫っていた。イケメンとはいうがここは女学校なので雫もまた女である。高等部2年の雫ときたら高い身長に整った顔、くせのあるショートヘアにパンツスタイルの改造制服、とにかく端麗としか表しようのない容姿でもって、女の子をオトしまくっているという噂だ。

「丸の内のお店に予約を入れてあるんだ。二人きりで楽しもう。退屈なんてさせない。忘れられない夜にしてあげるよ……」

その雫が今、殺し文句とともに奈々美の顎元にその瑞々しくも美しい指先を這わせている。奈々美が自分に靡かないことなどあり得ない、というかのように。

事実奈々美は靡きまくっている。容姿端麗文武両道、才色兼備の高嶺の花まで数センチ! 白昼堂々校内でこれをされると、頭が茹だって正常な判断ができなくなってしまう!

「あ、あの、あのあのあ、わ、わたひ……」

周囲を黄色い声のギャラリーに取り囲まれ、目の前には微笑の雫。もはやこれまで、観念したその時、ギャラリーから一歩進み出た人影が、そのまま雫の頭に小気味いいスラップをかました。

ギャラリーがざわめく。

「っつつ……なんだよ向日葵ひまわり、今いいとこだったのにィ」

「いいところもへったくれもないわよこの無差別女たらし! ごめんなさい、坂本さん、だったかしら? 変なことされてない?」

参戦してきたのは横川よこかわ向日葵、高等部2年の生徒会執行役員にして雫の幼馴染、マリ女のトップヒエラルキー。雫とはベクトルの違う高嶺の花だ。清楚な黒髪ロングをカチューシャで留め上げ、眩しいばかりの額にはシミひとつない。目の覚めるような美貌の持ち主で、立ち居振る舞いは常に全生徒の目標。きっちり着こなす制服はマリ女の風紀の象徴である。向日葵と雫は、学院内の生徒人気を二分していた。

「嫉妬かい? 見苦しいぞ向日葵。大体彼女は私が前から目をつけて……」

「まぁ、口さがないうえに品もないと来ているわ。そんなに女の子をたらしこみたいなら、退学届を出して頂戴」

学院二強の激突!がしかし。

「……それに、坂本さんの意志を聞いていないわ」

「えっ」

「そうだな……それを聞いてからでも遅くはない」

「ちょっと」

「坂本さん」

「坂本ちゃん」



「デートするなら……」

「どっちとしたい?」

奈々美は失神した。

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