一進一退ラバーズ
夜の海は、岸壁に座り込んでカップ酒を呷るには丁度いい。
「先輩、ここにいたんですか」
寄せては返す波の音に耳をすませていると、背後から声がかかった。
「
「風邪ひきますよ?」
お小言を言いながら、深月が隣に座った。手にははちみつレモンのペットボトル。
「私を連れ戻しに来てくれた?」
「半分はそうです。もう半分は――」
半分は? 訊こうとしたところで、唐突に柔らかいものが唇を塞いだ。唐突で、キスされたということにも気づかなかった。
「……そんなにご無沙汰だった⁉」
だってあまりにも突然のことで、声が裏返ってしまった。元よりちょっとむっつりというか、アプローチが直球で少し不器用なところがある
「ご無沙汰ですよ。私がこんなことするくらいには」
暗いのでよくわからないが、きっと深月の頬は赤い。それは私も……今が夜で助かった。
「早めに戻ってきてくださいね。おかんむりですよ、社長」
まだ心臓が早鐘を打っている私から離れようとする深月を、待って、と呼び止める。
「……なんです?」
「私からも、お返しがしたい」
そう宣言して抱きしめる。深月の髪から、ふわりといい匂いが漂った。夜まで保ってるなんて、きっとさぞやいいトリートメントをつけているのだろう。
「ちょ、ちょっと、先輩……!」
「いいからいいから」
付き合い始めてからというもの、どうにも私たちの関係は進んだり、また戻ったりを繰り返しているように感じる。だからこうやって互いにスキンシップを繰り返すことが重要、だと思っているのだが、いざやってみるとどうにも不慣れでぎこちない。
今だって、深月を抱きしめながら震えている。
「寒いねぇ」
「…抱いておいてセリフがそれですか」
「でも深月といると、あったかくって」
「それ、先に言っておくべきだと思います」
互いに手探り、おっかなびっくり。でもこの関係は悪くない。抱きしめてる時も幸せだ。キスにもそれ以上にもびっくりしちゃうけど、無理をしているわけじゃない。だからきっと、2人でいるのは幸せで。
ああ、もう!
「……気が済みましたか? じゃあ私会社戻るんで、先輩もとっとと帰ってきてくださいね。下手したら私も連帯責任になっちゃう」
「ま、待って深月!」
「今度は何⁉」
あきれた面持ちで深月が振り返る。
「……今夜……ていうか仕事終わってから、べ、ベッド、で……」
我ながらなんちゅう誘い方。深月は深く息を吐いてから、仕方ないですね、と漏らすように言った。
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