スーベニア

土産スーベニア?」

 それが名前? わたしは訊き返す。ジュリアはこくんと頷いた。

「ハロルドさんがそう呼んでた。見た目は背の高い金髪の女の人だったよ。先にお店を出たみたい」

 そう言ってジュリアは、わたしが買ったシェイクを啜った。

「スーベニア、か……」

 二つ名コードネームがそれだとすると、それに因んだ行動を取るはずだ。3週間前に起きた大使館爆破未遂事件は、周到で計画的な犯行だったが、犯人の動機も足取りも掴めない。頼みの綱である情報屋のハロルドは、数日前にパリから戻って以来、表向きのカバーである雑貨屋の営業を行っていなかった。彼は雑貨屋のカウンターを通してしかを受けないのだ。それが今日、特に通達もなく店を再開。わたしは即座に相棒のジュリアを送り込ませた。年齢は12かそこらだが、ジュリアは長年裏の世界で延びてきた連中が嫉妬するほど銃の扱いが上手い。わたしはラスベガス帰りの有り金を突っ込んで彼女を買い……この話は長くなるので割愛する。

 ともかく、万が一にも犯人と遭遇したときに警戒されないよう、ジュリアを入店させた。ジュリアの顔はハロルドも知っているからだ。


「……スーベニア」

 口の中で繰り返す。

「もし名前通りなら――」

 通りの向こう、ハロルドの雑貨屋を見やる。変わったところはない。わたしの横でジュリアはシェイクを飲み干す。

「爆弾。それか地雷」

 そして、私の後を引き継いだ。その言葉に、ゴクリと生唾を飲み込む。

「……だよね、やっぱり……」

 置き土産スーベニア。そう捉えるのが自然というものだ。

「行くよジュリア。うまくいったらあとでアイス買ったげる」

「やったっ」

 相棒は小さなガッツポーズを作った。


「……私一人ではどうすることもできなかった。本当に助かった」

「いいから! あの女は他に何を話してた⁉」

 ハロルドを押し込んだレンタカーをかっ飛ばしながら、声を張り上げて質問する。後方から「スーベニア」が追ってくる。ジュリアが100連マガジンのマシンガンで応戦しているが、その追跡はなお執拗だ。ハロルドの店の2階はあの後すぐに爆発した。

「身を隠せる場所と――」

「伏せて!」

 ジュリアが叫ぶ。グレネードがボディの横を掠った。前方に停まっていたトラックに着弾。すんでのところで路地に飛び込む。

「キャシー、『武器屋』まで飛ばして!」

「言われなくても!」

「『武器屋』⁉ 戦争でもするつもりか⁉」

「そんなの、とっくに始まってるのよ!」

 わたしはクラクションをかき鳴らしながら、車列の隙間に突っ込んでいった。

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