住めば都の水清からずや
安酒をぶちまけたような品のない町だった。薄汚くて排他的で、町のどこにいても変な
歩道橋の階段を下りる。下りた先で、酔っ払いが掴み合いの喧嘩をしていた。その脇を潜り抜け、
最近、娼婦と知り合った。親が国会議員だとかで、どう見てもこの町には相応しくない家柄だったが、安いモーテルで男を引っかけてはお金を巻き上げていた。一度彼女に誘われ、そのモーテルで男女10人ほどで集まってドラッグ・パーティーをやったことがある。覚えているのは服を脱いだところまでで、朝起きたら紐パンがお尻から出てきた。二度と行くまいとは誓ったが、彼女との付き合いは続いている。
「あたしは
一度、彼女に問うてみたことがある。親が議員だというのに、ここで暮らしいてもいいものかと。彼女はそう答えた。
「勘当…ってこと?」
「ちょぉっと違う。帰ってくんなとは言われてないからね。ただ、あたしは帰る気はない」
私のアパートで煙草を吹かしながら、彼女はにいっと笑った。
「その代わり、カネがヤバくなったときに脅して毟れるかも、くらいには思ってるよ」
「やめなよ…そういうの、割に合わないよ」
「……案外真面目なんだね」
私には貞操観念だの法律遵守だのとややこしい思想はない。ないが、やはり悪目立ちはすべきではないだろう。その点でいえば、町の人間はたいてい彼女のことを知っていたし、彼女もまたそれなりにこの町を居心地よく思っているようだった。
彼女と半同棲を試みたこともある。しかし、二人で住むのに四畳半は狭すぎた。普段はどこで寝ているのか、彼女に訊いてみたところ、相手に貢がせてホテル、または稼いだ金でネットカフェ……という、いささかロックな答えが戻ってきた。
こういう町だからこそ、彼女のように適度にルーズで、互いに踏み込み合わない関係が大事なのかもしれない。
「ねえ」
久しぶりだしさ、今度どこかに遊び行かない?
「いいじゃん!」
町は汚れていても、彼女も私も生きている。
それで充分だろう。
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